研究課題/領域番号 |
22K09223
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
大野 真佐輔 愛知県がんセンター(研究所), 分子診断TR分野, 研究員 (40402606)
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研究分担者 |
中野 秀雄 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (00237348)
藤田 貢 近畿大学, 医学部, 准教授 (40609997)
山下 公大 神戸大学, 医学部附属病院, 特命准教授 (80535427)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 転移性脳腫瘍 / 癌微小免疫環境 / 三次リンパ構造 |
研究実績の概要 |
消化器癌の転移性脳腫瘍パラフィン埋包検体を15例収集し、これらを用いてHE染色および各種免疫染色を行った。がん免疫の活性化に関与し、良好な予後や免疫チェックポイント阻害薬の有効性を予測するとして近年注目されている三次リンパ構造は、他の臓器では多くの報告があるが、転移性脳腫瘍に関しては皆無である。この度、HE染色を用いて転移性脳腫瘍組織の観察を行い、腫瘍辺縁や腫瘍辺縁の脳血管腔にこの三次リンパ構造を推定させるリンパ球の集簇を発見した。さらに、CD4、CD8、CD20、BCL6などによる免疫染色を進め、三次リンパ構造に特徴的なCD20陽性細胞、すなわちB細胞が腫瘍辺縁や腫瘍辺縁の脳血管周囲に集簇していることが観察された。しかし、成熟した三次リンパ構造のマーカーとして使用されるBCL6を発現しているB細胞は認められず、転移性脳腫瘍における三次リンパ構造は未熟な形態として存在していることが明らかになった。また、腫瘍組織内に存在するB細胞は主に三次リンパ構造内に存在するという既知の知見より、腫瘍細胞内のB細胞を含む免疫細胞のすべてを画像解析ソフトを用いてカウントし、これらの結果を臨床データと照らし合わせ、統計解析を行った。15例の患者を高B細胞群、低B細胞群の2群に分け解析を進めた結果、高B細胞群において、転移性脳腫瘍発生からの生存期間および転移性脳腫瘍術後からの生存期間が有意に長いことが分かった。以上より、転移性脳腫瘍におけるB細胞の存在は転移性脳腫瘍発症後の良好な予後に関連することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年にわたる新型コロナの蔓延により当院においても臨床業務に支障が生じた。特に病理部門が所属する臨床検査科においては多くのスタッフとその家族が新型コロナに感染し就業困難となった。患者の治療に関連する業務の遂行が最優先され、研究に関する業務は後回しになる。結果、当研究に必要な病理組織検体スライドの作成が大幅に遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
転移性脳腫瘍における三次リンパ構造の存在に関する報告はいまだなく、その存在をより強固に証明するため転移性脳腫瘍における追加の免疫染色を行い詳細な構造解析を進める。また、転移性脳腫瘍に存在するB細胞が良好な予後に関連することが確認されたため、今後は手術摘出で得られた生検体を用いてB細胞を抽出していく。腫瘍内に存在するB細胞においても高度に腫瘍免疫活性を認めるものから、免疫活性に乏しいものまであるため、腫瘍免疫活性の高いB細胞の抽出のためのマーカーを決定していく。有望なB細胞の抽出が完了すればこのB細胞の抗体情報を用いてCARの構築を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の主要な研究は、パラフィン埋包転移性脳腫瘍検体からの病理組織スライドの作成と免疫染色、およびその解析であるが、3年続いた新型コロナウイルスの感染症が院内にも蔓延し、特に病理部門においてスタッフが多数出席停止となり、業務が停滞した。そのため研究も数か月停滞した。なお別記の通り転移性脳腫瘍内の三次リンパ構造およびB細胞の同定は目論見通り遂行できたため次年度は手術によって入手した転移性脳腫瘍の生検体を用いてB細胞の抽出と抗体情報の入手を試みる。
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