研究課題/領域番号 |
22K09232
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
木村 英仁 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (90514753)
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研究分担者 |
篠山 隆司 神戸大学, 医学研究科, 教授 (10379399)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | myoglobin / cerebral aneurysm / mechanism / thin wall / thick wall |
研究実績の概要 |
未破裂脳動脈瘤の破裂のメカニズムは未だ十分に解明されていない。動脈瘤破裂は壁の菲薄部で起こるとされるが、実際の動脈瘤壁には壁の菲薄部と肥厚部が混在している。壁を菲薄化あるいは肥厚化させる要因を明らかにできれば、動脈瘤の破裂機序解明、破裂予防策を見出せる可能性がある。我々はこれまで数値流体解析によって瘤壁血流の“よどみ”が少ない部分は菲薄化し、 “よどみ”が多い部分は肥厚化することを突き止めて報告してきた。本研究では、この“よどみ”が壁の菲薄・肥厚を引き起こす分子生物学的機序を解明することである。本研究の先行研究として、脳動脈瘤手術の際に、脳動脈瘤壁の菲薄部・肥厚部を採取し、プロテオーム解析を行った。そこでこの度我々は初めて脳動脈瘤壁肥厚部に、ミオグロビンが存在していることを発見した。ミオグロビンは、動脈瘤壁の破壊・菲簿化に関与する一酸化窒素(NO)のスカベンジャーとしての機能があるとされる。そこで、本研究では、①「ミオグロビンとNO合成酵素iNOS等の壁菲簿化に関わる蛋白の瘤壁肥厚・菲薄部における発現特異性を組織学的に検証すること」、②「ラット脳動脈瘤モデルにおけるミオグロビンと既知の壁破壊性蛋白との発現様式の検討」を行うことである。これらにより、壁肥厚・菲薄化におけるミオグロビンの分子生物学的役割の解明、“よどみ”との関係を探求することを目的としている。①について、手術患者16名からの動脈瘤標本の組織学的検討で、中膜平滑筋層には筋線維芽細胞が含まれていて、それによりミオグロビンが産生されていると思われること、壁ミオグロビンの密度とコラーゲン繊維密度は相関がみられることを発見した論文投稿を行った。またラット脳動脈瘤モデルの作成が頸部内頸動脈において安定的に作成でき、ミオグロビンと筋線維芽細胞の発現を確認し、それは血管平滑筋とは別の細胞群によるものと思われることを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年までの結果で論文投稿を行っていたが、通常、平滑筋にはミオグロビンが存在し動脈瘤壁にも平滑筋が存在することはこれまでにも報告があるため、動脈瘤壁におけるミオグロビンの存在意義について懐疑的なコメントがあり、論文受理に未だ至らなかった。そこで、この本年、追加実験として壁菲薄部と肥厚部を別々にWestern blotを行った。結果、壁肥厚部のみならず肥厚部にもミオグロビンの存在を確認できたが、ミオグロビンの発現と血管平滑筋の発現に相関は認められなかった。つまりミオグロビンは予想どおり血管平滑筋由来ではないと思われる所見が得られた。組織学的検証によって筋繊維芽細胞由来であると考えられた。一方で、血管平滑筋の発現は菲薄部より肥厚部で発現量が多かった。これらの結果を踏まえ論文を追記、推敲している。これにより論文の受理が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のごとく、追加実験結果を論文に追記し学術雑誌への投稿する。 さらに、作成済みのラット動脈瘤壁において、Tumor necrosis factor-α(TNF-α), matrix metalloproteinase (MMP)- 2, 9, Nuclear factor-kappa B (NF-κB), Monocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1), inducible nitric oxide synthase (iNOS) , interleukin-1β(IL-1β)などの動脈瘤壁を菲薄化させるタンパク、さらにミオグロビンや筋線維芽細胞などの発現状況を検証し定量的に評価する。これらにより動脈瘤壁におけるミオグロビンの役割について検討する。また、新たに得られたヒト脳動脈瘤壁サンプルを用いて追加プロテオーム解析を行い、ミオグロビン以外に壁肥厚部あるいは菲薄部に特異的に発現するタンパクの探索を続ける。これらにより、脳動脈瘤碧におけるミオグロビンの分子生物学的役割について考察し、得られた知見、結果を国内、国際学会にて報告し論文を作成し学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
プレパラート作成費用、ラット飼育費用、および標本の免疫染色に想定より多くの費用がかかり、次年度分を一部前倒し請求を行った。これにより本年度の研究を滞りなく行うことができた。使いきらなかった分を、本来の次年度で使用するものである。これまでの研究によりラット脳動脈瘤標本の作成が安定しラット動脈瘤壁標本のストックも蓄積できた。次年度はこれらラット脳動脈瘤標本作成を継続しながら、動脈瘤壁におけるミオグロビン、さらにこの度新たに発見できた筋繊維芽細胞の役割について主に免疫組織学的手法を用いて検討していく予定である。さらに、これら得られた所見を統合し論文報告を行う。
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