研究課題/領域番号 |
22K09235
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
野村 貞宏 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (20343296)
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研究分担者 |
森山 博史 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (40816633)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | hydrocephalus / Alzheimer disease / cerebrospinal fluid |
研究実績の概要 |
髄液産生と吸収に関する各種研究を調査した。概略は以下の通りである。脳脊髄液は脈絡叢だけではなく脳実質で血液脳関門を超えて産生される。頭蓋内の髄液には脳室から脳槽に至る流れがあるのではなく、隣接する髄液腔の間で拍動し、脳室、実質、脳槽の間も移動している。吸収路はくも膜顆粒ではなく鼻粘膜、脊髄神経根、硬膜内リンパ管など、様々な部位に存在する。これら新説と旧説の真偽については未だ決着がついていない。本研究に対しては実験結果の解釈に影響を及ぼし、臨床応用時には治療方法も変える必要に迫られる問題である。そこで今年度は動物実験部門を一時控え、髄液産生吸収問題について専門家への問い合わせと全国の研究施設への調査を行った。その結果は研究会での発表と論文の作成で示している。 髄液のturn overが脳機能に影響することは、高齢者のアルツハイマー病に限定された問題ではなく、新生児の脳発達にも関係している。髄液が貯留する水頭症という疾患の影響が、その開始時期によってどのように異なるかを調べた。患者を胎児期から水頭症が始まった群と出生後早期に水頭症が始まった2群に分けて、脳と脳室の形を比較したところ、胎児期水頭症では脳室体部すなわち脳が最大幅を示す部分で最大幅を示し、出生後水頭症では脳の幅が比較的小さい部分すなわち前角と三角部で脳室が拡大していることが判明した。本研究成果を日本脳神経外科学会で発表した。発生時期による水頭症形態の違いはラットに水頭症を作成する際にも考慮すべき事であるため、本研究との関連がある。 昨年に続けて、ラットにアミロイドβの脳内注入を行い、アルツハイマー型認知症モデルを作成した。認知機能は有意に低下し、機能的には成功しているが、脳室拡大が十分に見られず、シャント術の成功率が低い。そのため髄液排出による神経機能改善の確認に至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラットモデルを用いて髄液ドレナージを行い、神経学的所見の変化と脳室サイズの変化を確認する予定であったが、実験結果が安定せず、成功例が非常に少なかった。一方脳室、脳槽に人工髄液または薬液を注入する実験は成功している。これは脳室、脳槽が狭いためである。カニュレーションを行った後、注入の場合は脳室、脳槽を拡大しながら行えるのに対し、排液の場合は脳室、脳槽が虚脱し、持続性が途絶えてしまうためと考察した。 臨床においては脳室が虚脱していても髄液の排液がなく、頭蓋内圧は高い例がある。おそらくラットにおいても髄液腔の一部虚脱は頭蓋内圧の低下ではなく、亢進を招いていると推測された。 この問題を克服するため、脳室サイズが大きい重症のモデルを作成してからシャント術を行う計画を立案した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は前年にやり残した実験を行うべく、ラットの脳室拡大モデルおよびアミロイドβ注入モデルを用いて、髄液ドレナージの神経所見および脳室サイズに対する効果を確認する。これまでの実験結果から、体外ドレナージで髄液を回収することは難しいと判断されたので、カテーテルを埋め込む大槽皮下シャント術を主に行う。 脳室へTRPV4 channel作動薬を持続注入し、髄液産生を促進する実験を行う。次いで、脳室へTRPV4 channel阻害薬を持続注入し、髄液産生を減少させる実験を行う。本年度行った髄液産生吸収研究の結果から、本実験においても髄液産生の増加と減少が脳室サイズの変化として示されることは確実とは言えなくなった。脳室サイズに変化が現れなかった場合の髄液産生量の測定には、脳内に注入した色素の拡散と残留を測定する方法が良いと思われる。あるいはアミロイドβの残留を調べれば、途中の証明を省いた形ではあるものの、本研究は一応完成すると言える。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた動物実験が上手くいかず、いったん実験を中止したため、物品費が計画よりも消費できなかった。実験方法の見直しを行い、遅れた実験は来年度に行う予定である。
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