研究課題
我々の研究室では、WT1を中心とする免疫療法を悪性神経膠腫に対して導入し、治療反応性に関する研究や免疫逃避現象に関する研究を行ってきた。また、同時に腫瘍抵抗性の原因として、腫瘍幹細胞の治療抵抗性とその制御、腫瘍血管正常化による治療効果について研究を進めてきた。また同時に、大規模な遺伝子解析の知見が急速に進み、分子分類による予後予測などが可能となってきている反面、腫瘍細胞の多様性・不均一性が問題となっている。クローン進化やエピゲノム変化などの内的要因に、微小環境や相互作用などの外的要因が加わり、多彩な治療反応性が作り出されると考えられる。また、免疫療法終了後に神経血管抑制薬を投与した症例やその反対の順序での薬剤投与に関して、現時点で免疫応答を予測するデータは存在しない。これまでの研究で、神経膠腫のゲノム・エピゲノムを含むheterogeneityと免疫応答の関係性を明らかにするとともに、腫瘍幹細胞や微小環境による腫瘍免疫抑制の解明、免疫療法と新生血管抑制因子を含む分子標的薬との組み合わせやタイミングなどを検討する基礎的な研究を模索してきた。今回の研究では、確立されている免疫療法動物モデルや、WT1臨床試験参加者の動的な抗腫瘍免疫応答と治療抵抗性のメカニズムを明らかにするとともに、免疫反応、治療成績に影響する新たな組織内もしくは液性のバイオマーカーについて探索するとともに、ペプチドワクチンを中心とした腫瘍血管正常化薬や免疫チェックポイント阻害薬などの組み合わせによる有効な複合的免疫療法の開発を模索することにより、我が国発信の免疫療法を含んだ新たな臨床試験の可能性が広がり、悪性脳腫瘍の治療成績を改善させる礎となることを期待する。
3: やや遅れている
我々は以前より悪性神経膠腫に対するWT1ペプチドワクチン療法の臨床試験を行い、その有効性を報告してきた。一昨年からは新たなプロトコールによる臨床試験も開始しており症例の集積が進んでいる。その経験からWT1療法を実施後に再発に至った悪性神経膠腫症例の切除検体標本を用いて腫瘍内免疫応答並びに免疫逃避のメカニズムの解析を進めている。腫瘍内浸潤リンパ球の変化をはじめ、HLA class I、WT1抗原、またIL-10、TGF-βなどの免疫逃避に関する分子発現に加えてPD-1、PD-L1等の表面抗原の発現状態についても免疫染色等の手法を用いて検討を行う予定である。さらにWT1療法と抗PD-1抗体療法の複合的免疫療法の実施にむけて担脳腫瘍マウスモデルを作成し、各々の療法についてその生存期間および腫瘍内の免疫応答について解析を進めている。WT1免疫療法に加えてPD-1交代療法を行ったマウス実験では単独療法より効果を増強する効果を確認している。異常血管構造を正常化させることにより、抗がん剤到達を改善させ、抗腫瘍効果を増強させる「腫瘍血管正常化」という新しいコンセプトを悪性神経膠腫の治療に応用するための基礎研究に取り組んでいる。本研究においては、mouse glioma cell lineであるGL261をマウス脳内に同所移植し、マウス脳腫瘍モデルを作成、その担癌マウスに対して悪性神経膠腫に対する治療薬として臨床使用されているTemozolomideと腫瘍血管を正常化させる因子を併用することで、survivalに改善効果があるかどうかを検証してきた。また、腫瘍血管正常化と化学療法、免疫療法、その他の分子標的との関係なども検証を続けている。また、神経膠腫のmolecular classificationとの因果関係についても研究を続けていく。
悪性神経膠腫幹細胞の微小環境における免疫抑制状態の解明について以下の研究を行う。既に腫瘍検体より分離・培養した腫瘍幹細胞を用いて、その細胞表面抗原および液性因子の発現を確認し、非幹細胞と比較し免疫逃避の解明を図る。低酸素や代謝障害などの環境下での発現の違いを確認し、発現の変化を調査する。悪性神経膠腫の分子分類と腫瘍内免疫環境との関係について以下の研究を行う。当研究室で現在まで蓄積してきた臨床検体および新規に採取する検体を用いて、悪性神経膠腫の分子遺伝学的なサブタイプと腫瘍内免疫応答に関する因子との関係について統計学的手法を用いて検討する。腫瘍幹細胞マーカー、各種サイトカイン、immune checkpoint modulator、新生血管因子なども測定する。腫瘍細胞および幹細胞の多様性・不均一性(heterogeneity)と免疫応答との関係について以下の検討を行う。同一腫瘍検体で複数のサインプリングを数検体で行い、ゲノム・エピゲノムの解析と同時に、腫瘍内免疫応答に関係する因子、低酸素、代謝異常などに関する因子を測定し、関係性を考察する。幹細胞成分での同様の因子を解析し、比較検討する。腫瘍幹細胞移植xenograft modelにおける化学療法、血管正常化因子の影響について以下の研究を行う。既に同定されている腫瘍幹細胞の他、幹細胞マーカーknock down細胞及び強制発現株を作成し、mouse xenograft model(胎児免疫不全マウス)を実験に使用する。xenograft model内での腫瘍形成能や浸潤能を病理組織学的に解析する。分化能、腫瘍幹細胞の局在を評価する。抗がん剤(temozolomide)や放射線照射、血管正常化因子について検討を行う。
動物実験施設内での研究申請が遅れており、次年度では動物実験の研究を重点的に行う。マウス脳腫瘍モデルを用いた血管正常化因子と免疫療法併用の効果について以下の研究を行う。GL261マウスグリオーマ細胞株にALCAM強制発現したもの、ALCAM knock downしたものを57BL/6マウス脳内に移植し、腫瘍内での免疫反応を比較する。その後、(1)病理組織を解析し、脳腫瘍組織内に免疫担当細胞が浸潤することを明らかにする。(2) flow cytometryを用いて腫瘍内浸潤免疫担当細胞の生物学的特徴を明らかにする。(3) in vivoイメージングシステム(Xenogen IVIS Lumina II)を利用して、免疫担当細胞が脳腫瘍に集積する様子を経時的に観察する技術を確立する。もう一つは、Cre-loxP制御型レンチウイルスベクターを用いて、TP53をコードする遺伝子をヘテロ接合で持つマウスの大脳皮質や脳室下領域にRasおよびAKT活性化型をGFAP陽性細胞に特異的に発現させ、悪性神経膠腫を発生させる。共に脳腫瘍が形成された数匹で同様の治療実験を行う。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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