研究実績の概要 |
MR Elastography(MRE)とは生体内部を伝わる伝播波をMR位相画像上に可視化し,可視化した伝播波画像(Wave Image)の局所波長から定量的な硬さ画像(Elastogram)を求める「一連の撮像と画像処理」を指す. MREは触診が困難となる深層筋のElastogramを得ることができるので,深層筋を対象にした「定量的な疑似触診」を可能にする. 非侵襲的な大腰筋の硬さ計測はMREでなければなし得ない. 原因が特定できない腰痛(非特異的腰痛)の原因の1つに「大腰筋の持続性収縮」が示唆されてきたが,大腰筋は触診が困難なので,それを客観的に実証できなかった. そこで,MREを大腰筋に適用し,非特異的腰痛を評価できる新しい画像診断技術を開発した(Magn.Reson.Imaging 2019;63:85-92, Applied Magn. Reson. 2021;52:157-168). 大腰筋運動直後からの時間的な筋肉組織変化を計測・解析した(Magn. Reson. Imaging 2022;92:133-139). 時間的変化を追ったパラメータは硬さ(粘弾性),横緩和時間(T2),拡散係数(ADC)の3つである. 運動直後の大腰筋は硬さが優位に低下し,T2とADCは優位に増加した. 運動後には水分の滞留や炎症,あるいは筋細胞の構造変化によって筋肉の粘性が低下することが知られており,前述の「硬さの低下,T2とADCの増加」によく一致した. その後の大腰筋組織変化は硬さが運動前とくらべて優位に増加し,T2とADCは有意差がない程度に回復した. 運動後の筋肉にはカルシウムイオンによる筋収縮が起こることが知られており,この現象をMREで捉えていると考えられる. 時間的大腰筋組織変化は非侵襲的に5分程度の時間分解能で測定されており,これは新しい知見・報告である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者が進めるMRE技術開発はMRI製造メーカから独立した独自技術によるものであり,申請者のペースで研究・開発を進めることができる. これが「おおむね順調に進展している」理由だと考えられる. 仮に申請者施設が管理するMRI装置の長期間故障があったとしても,申請者が研究・開発を進めるMREシステムはどんなMRI装置にもMREを後付げすることができるシステムなので,他の施設が管理するMRI装置でも研究を継続できる. 実際には,申請者施設が管理するMRI装置は教育備品(診療放射線技師養成所指定規則に準ずる)であるため,故障時には優先的に修理・修復される備品であり,長期間の故障による障害は発生しにくい.
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今後の研究の推進方策 |
今後は技術的な開発が完了しつつある大腰筋MREを用いて,多数の被検者を対象にしたボランティアスタディを実施する. 大腰筋の硬さを定量的に計測した報告が世界的にみてもこれまでにないので,我々のスタディが初の試みになる可能性が高い. まずは,健常者の一般的な大腰筋の硬さを評価する, この「標準的な大腰筋の硬さ」が測定されない限り,その後に続く非特異的腰痛患者の大腰筋硬さ測定値との比較ができない. よって,精度の高い「標準的な大腰筋の硬さ」を得るためには,多くの被検者での測定が必要になる.
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