研究課題/領域番号 |
22K09344
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
岩澤 三康 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 診療部・整形外科, 部長 (60574093)
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研究分担者 |
福井 尚志 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系リウマチ研究室, 客員研究員 (10251258)
津野 宏隆 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), リウマチ性疾患研究部, 医長 (90792135)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 変形性膝関節症 / 軟骨 / 膝関節 / 軟骨変性 |
研究実績の概要 |
変形性関節症(OA)は緩徐に進む軟骨の変性消失を本態とする疾患である。現在までのところ軟骨の変性は軟骨細胞自身が産生する種々のタンパク分解酵素の作用によると考えられており、とくにMMP-1、3、13やADAMTS-4、5といった酵素が軟骨の変性に大きく関与するとされる。しかしこれらのタンパク分解酵素は、そのほとんどがはじめ活性を持たない潜在型として産生され、プロぺプチド領域が切断され活性型となることで初めて酵素活性を示すようになる。このためこれらのタンパク分解酵素が実際に軟骨基質を分解するには、酵素が産生されただけでなく、さらに活性化される必要がある。これらの酵素の活性化を引き起こす因子(以後、活性化因子)についても治験が積まれており、MMPについてはプラスミンやマトリプターゼ、さらにMMPの一種MMP-3やMMP-14が、またADAMTS-4、5についてはフーリン、PCSK6といったタンパク分解酵素やプロテオグリカンの一種シンデカン-4がそれぞれ活性化に関与することが知られている。OAにおける軟骨変性の過程でもこれらの因子のいずれかによってMMPやADAMTSの活性化が生じているはずであるが、ヒトのOA軟骨において、どの因子が重要なのかについての知見はほとんど得られていない。研究代表者らは予備検討の結果から、OA軟骨の変性部においてウロキナーゼ(uPA)や組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の遺伝子発現が亢進していること、また軟骨組織から抽出されたタンパクの解析によって軟骨変性部においてプラスミン活性が上昇していることを見出した。本研究で軟骨変性部においてプラスミン活性が上昇する機序の詳細の解明とプラスミン活性上昇の病的意義を知ることを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度の2022年は前半に予備検討の結果を検証するためにOA軟骨の採取、タンパク抽出液の用意およびその解析を行った。16例の末期OA膝関節から人工関節置換の際に軟骨の肉眼的な変性部(変性軟骨)および非変性部(非変性軟骨)からそれぞれ軟骨を全層にわたり採取した。これらの軟骨からPBS中のホモジナイズによってタンパクを抽出し、タンパク抽出液中のプラスミン、uPA、tPAの活性を市販のキット(いずれもAnaSpec社製)を用いてそれぞれ計測した。その結果、非変性軟骨に比して変性軟骨からのタンパク抽出液においてプラスミン活性、uPAおよびtPAの活性がいずれも有意に高いこと、また軟骨変性部からのタンパク抽出液においてプラスミン活性とtPA活性の間に有意の正の相関があることを確認した。さらにルミネックスによる計測を行い、軟骨変性部からの抽出液にはuPA、tPA、plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)のほか、uPAの活性化に関与するurokinase receptor(uPAR)がいずれも非変性部からの抽出液に比して有意に多く含まれていることを見出した。また同じタンパク抽出液を用いてD-dimerの濃度を計測したところ、その濃度もやはり軟骨変性部からの抽出液において有意に高値であった。tPAはフィブリンと結合することでPAI-1の抑制を受けにくくなり、高い効率でプラスミノーゲンをプラスミンに変換することが知られている。本年度の解析結果から、OA軟骨変性部ではPAI-1の発現も亢進しているが、フィブリンが存在するためにtPAの活性が抑制されず、おもにtPAの活性によってプラスミンが産生されている可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年目となる2023年度には2つの課題について解明を進める。課題の第1はOAにおける軟骨の変性機序の詳細の解明で、具体的には①OA軟骨変性部においてプラスミン活性によりMMPの活性化が実際に起こっているのか、および②その結果、軟骨基質の変性が生じているのか、を明らかにする。①については前年度に用意した軟骨組織からのタンパク抽出液を用いて、抽出液中のMMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-14の活性を市販のキット(いずれもAnaSpec社製のキットの使用を予定)を用いて計測する。②については同じタンパク抽出液を用いて、抽出液中のII型コラーゲンの分解産物およびアグリカンの変性産物の濃度をそれぞれ市販のELISA(IBEX社製およびThermoFischer社製のELISAの使用を予定)を用いて計測する。これらの解析結果と2022年度の解析結果を照らし合わせることで軟骨変性部におけるプラスミン活性と上記のMMPの活性、さらに軟骨基質の変性との関連を明らかにする。 課題の第2は軟骨変性部においてuPA、tPA、PAI-1、uPARの発現が亢進する機序の解明である。代表者らは予備検討の結果から軟骨細胞が細胞外マトリクスの変化に応じてuPA、tPAの発現を増加させることを見出している。他方、代表者が所属する研究室では他のプロジェクトにおいてtPA以外の3遺伝子の発現がTGF-βによっても上昇すること、OA軟骨変性部では活性型のTGF-βが生理活性を十分示す濃度で産生されていることを明らかにしている。本研究ではOA軟骨変性部における上記4遺伝子の発現には細胞外マトリクスの変化とTGF-βの活性のいずれが重要なのかを遺伝子ごとに明らかにする。この結果は軟骨変性部におけるプラスミン活性の制御を考えるうえで重要な知見となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究第2年度は上述のように抽出液中のMMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-14の活性計測を予定しており、ぞれぞれ専用の市販のキットの購入が必要となる。またタンパク抽出液中のII型コラーゲンの分解産物およびアグリカンの変性産物の濃度の計測についてもそれぞれ市販のELISAの購入を必要とする。これらの計測では実際の計測に先立って検体の適切な希釈倍率や計測条件を決めるために予備検討を行う必要もあると思われ、相応の実験経費が必要になることが予想される。このために本年度の研究経費の一部を次年度へ繰越すことにした。
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