研究課題/領域番号 |
22K09427
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
岡元 信和 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (70600162)
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研究分担者 |
宮本 健史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70383768)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 異物巨細胞 |
研究実績の概要 |
人工関節や、ネイル、スクリュー、プレートなど、日常的に医療用異物を体内に設置する整形外科医療において、異物反応の理解は欠かせない。我々はこれまでに、インプラント等の生体にとっての異物に反応して形成される異物巨細胞が、単核の細胞同士による細胞融合により多核化すること、この細胞融合による多核化には多数回幕貫通型分子であるdendritic cell specific transmembrane protein (DC-STAMP)ならびにosteoclast stimulatory transmembrane protein (OC-STAMP)が必須であること、これらいずれかの遺伝子欠損マウス由来の細胞では、異物巨細胞の細胞融合が完全に阻害されることを、各々の遺伝子欠損マウスを自ら樹立し、世界に先駆けて証明した(J. Exp. Med. 2005、Nat Med. 2006、J Bone Miner Res. 2007、J Bone Miner Res. 2012)。これらの発見は、これまで詳細な分化系譜が不明であった異物巨細胞の分化や機能を明らかにするための端緒となった。分化条件が確立したことで、異物巨細胞分化には転写因子でありシグナル分子でもあるsignal transducer and activator of transcription 6 (Stat6)が必須であることを明らかにした(J Biol Chem. 2012)。また、異物巨細胞には骨吸収が全くないことも明らかにしている(J Biol Chem. 2015)。これらのことは、異物巨細胞は破骨細胞とマクロファージ由来の細胞で前駆細胞が共通であることや細胞融合により多核化するなど、多くの共通点を有しているにもかかわらず、骨吸収や骨破壊能において決定的に異なる細胞であること、むしろ異物巨細胞は組織修復や免疫寛容に関与する因子を豊富に分泌する細胞であることを突き止め(J Biol Chem 2015)、これまでインプラントルースニングの元凶と考えられてきた細胞に対して、全く異なる機能があることに気がついた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
破骨細胞は2つのサイトカインM-CSFとRANKLにより誘導されるが、異物巨細胞はGM-CSFとIL-4により誘導されることを示し、異物巨細胞分化には Stat6が必須であるが、Stat6は破骨細胞分化には必要ではないことを明らかにした(J Biol Chem 2012)。これらの過程で、破骨細胞分化に必須の役割を担うITAM (Immuno-tyrosine based activation motif)分子が異物巨細胞分化においても必須であることを見出した(未発表)。ITAM分子には、Fc受容体γ subunit(以下、FcRγ)とDAP12の2種類が知られているが、我々はFcRγが異物巨細胞分化に必須であることを、FcRγ欠損マウス(FcRγ KO)とDAP12欠損マウス(DAP12 KOマウス)を用いて見出した(未発表)。さらに、アダプター分子であるFcRγに会合することが知られている分子で異物巨細胞に強く発現する分子をマイクロアレイでスクリーニングし、Dectin-2を同定した。Dectin-2は寄生虫や真菌感染においてT細胞活性化に関与することは報告されているが、異物巨細胞における発現や機能は不明である。そこで、Dectin-2欠損マウス(Dectin-2 KOマウス)を入手し、異物巨細胞分化を検証したところ、分化が抑制される知見を予備検討において認めている(未発表)。 これらの進捗状況から、研究が概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている異物巨細胞の細胞融合に必須の分子であるDC-STAMPとOC-STAMPのそれぞれの遺伝子欠損マウスを用いて、それぞれの分子を介した細胞融合機構について解析を進め、異物巨細胞における細胞融合の必然性や、細胞融合を切り口とした機能獲得の有無を評価する。また異物認識機構として、Dectin-2やITAMシグナルについて、Dectin-2欠損マウス、FcRγ欠損マウスおよびDAP12欠損マウスを用いた解析を行う。これらの解析は、まずはin vitroでそれぞれの遺伝子欠損マウス由来の異物巨細胞前駆細胞の培養を行い、細胞融合の有無などを解析する。また、これらのマウスの交配を行い、ダブルノックアウトマウス等を作成し、評価を進める予定である。
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