研究課題
研究代表者らは、膀胱がん患者の尿中エクソソーム内のmRNA(EV mRNA)を用いて、網羅的にRNAシークエンスを行った結果、健常者と比べて膀胱がん患者において発現の高い遺伝子としてMDKとKRT17を同定することができた。また、当院および関連施設施設を併せた5施設から、膀胱がん患者が316名参加した(内訳は尿路上皮がん236名、コントロール患者42名)、横断的に尿中mRNAの網羅的解析を行った。また、そのうち219名は筋層非浸潤性膀胱がんと診断され、前向き縦断研究に参加した。219名中38名がフォローアップ中に再発しており、非再発患者151名とのEV mRNA発現のダイナミックな変化についての解析を始めている。中間解析では、膀胱がん再発のない患者と比較して、膀胱がん再発のある患者ではEV mRNAのうちKRT17が、初回手術後に経時的に増加することが明らかとなっている(未発表データ)。横断研究では健常者と比較して、膀胱がん患者でEV mRNA(KRT17)の発現が高値であることはすでに発表していたが、今回の前向き縦断研究研究から、EV mRNA(KRT17)膀胱がん術後再発予測マーカーとして期待できると研究代表者らは考えている。他の、EV mRNAマーカーや既存の尿検査(尿細胞診等)との組み合わせにより膀胱鏡を行わなくとも非侵襲的に膀胱がん再発を見いだせるモデルの作成に進む予定である。現在は、研究代表者がすでに同定したMDKおよびKRT17の診断マーカーとしてのValidationを行っている。また、これらの遺伝子発現の経時変化を解析することにより、膀胱がん発症のメカニズムや再発予測マーカーとしての有用性について検証している。さらに膀胱がんの発症時の尿中発現マーカーと、再発時の尿中発現マーカーの一致/不一致を解析し、個別化された再発予測システムの確立を目指している。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者らは、膀胱がん患者の尿中エクソソーム内のmRNA(EV mRNA)のうち、KRT17とMDKについて、横断研究のみならず、縦断研究においてもその診断マーカーとしての意義が高いと示唆するデータを得ることができた。本研究の究極の目標である個別化された再発予測システムの確立に向けて概ね順調に研究が進んでいると考えている。令和5年度では、横断的に集められた尿検体の解析を終え、着目する遺伝子を絞り込み尿中バイオマーカーによる膀胱がん診断能についてのValidationをさらに進めている。前回の研究で明らかにしたKRT17、GPRC5A、SLC2A15の3つのマーカーから特に、KRT17が優れていることがわかり、加えてMDKが診断マーカーとして有用であることが追加解析から明らかとなった。これらのEV mRNAマーカーの中でもMDKとKRT17の発現は、pTaと比較し、pT1、Tis、MIBCといったより高いステージ/グレードの腫瘍を持つ患者において高発現しており、かつ健常者と比較しても有意に高かった。EV mRNAマーカーの診断性能をROC曲線解析で推定し、尿細胞診、顕微鏡的血尿、バイオマーカー(BTAおよびNMP22)と比較したところ、EV mRNA MDKは膀胱癌の検出において0.760という最も高いAUCを示していた。また、EV mRNAマーカー(KRT17、GPRC5A、SLC2A15、KRT17、MDK)の経時的な発現変化について、再発患者と非再発患者における違いについて解析を始めることができている。中間解析では、経尿道的膀胱腫瘍切除後の経過期間が長いほど(術後12ヶ月と術直後)、これらのマーカー精度が高くなることが明らかとなった。以上の結果からも、非侵襲的に膀胱がん再発を見いだせるモデルの作成に向けて概ね順調に研究が進んでいると言える。
今後の研究の推進方策については以下のように準備する(1)尿中バイオマーカーの膀胱腫瘍組織での発現を解析:本研究で着目する尿中EV mRNA遺伝子の発現を、膀胱腫瘍並びに正常膀胱粘膜、および尿中細胞を用いて解析する。先行する膀胱がんと、異時性に再発した膀胱がんにおけるこれらの遺伝子発現に関連する分子の免疫組織染色を行うことで、再発や進展のメカニズムを遺伝子レベルで明らかとする。上記研究により最適化された膀胱がん診断キットの開発を目標とする。(2)尿中バイオマーカーの術前から術後における発現の変化を解析:本研究で着目する遺伝子群の発現が、治療前後、および再発時にどのように推移するかを解析する。経時的に集められた尿検体から前述の方法でエクソソームを抽出し、mRNA発現解析を行う。着目する遺伝子群の発現の経時変化を解析することにより、膀胱がん発症のメカニズムや再発予測マーカーとしての有用性について検証する。膀胱がんの発症時の尿中発現マーカーと、再発時の尿中発現マーカーの一致/不一致を解析し、個別化された再発予測システムの確立を目指す。(1)、(2)と並行し、最適化された膀胱がん診断キットの開発を目標とする
今後は、各種の遺伝子異常について免疫組織染色での解析をすすめる必要がある。抗体試薬一式、やサンプルの準備など等の高額の費用が発生する。そして、解析ソフトの更新費用が継続として必要となる。また、解析結果も徐々に明らかとなりつつあり、海外および国内での学会発表や、論文投稿の際の(オープンアクセス化)費用が必要となる見込みである。こちらも、最近の円安のためいずれも高額となっており、次年度にも研究予算が必要となっている。
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