研究実績の概要 |
ODF4は精子の外側粗大線維を構成するタンパク質として同定されたが,その機能は長い間不明であった。我々は先行研究にて,ODF4遺伝子欠損(ODF4 KO)マウスは,余剰細胞質を巻き込んだヘアピン型尾部を持ち頭部を後ろにして逆泳する精子を持つために男性不妊であること,ODF4が細胞質にも局在し可溶性のODF4が存在することを発見した。本研究では,当初の計画に加えて,ODF4 KO精子は,Adenylate kinase 1および2(AK-1,2)が顕著に減少していること,野生型精子ではODF4がAK-1および2と共在していることを証明した。また,計画に基づき以下の解析を行ない結果を得た。運動解析では,KO精子は運動率,直進速度,平均速度の全てが低下していた。精子尾部のbeat数の解析では,KO精子では尾部中間部はcapacitation前後ともに全くの不動であるのに対して,主部はbeat数が顕著に増加していた。精子を脱膜後にATPを投与する脱膜テストでは,余剰細胞質が除去されたKO精子は正常に近い動きをすることがわかった。精子内の平均ATP濃度とADP濃度は,野生型がcapacitation前後で一定であるのに対して,ODF4 KO精子では野生型よりもATP,ADPともに顕著に高くcapacitation前後の値が一定ではなかった。以上の結果をまとめ,可溶性のODF4はAK-1およびAK-2と共同して精子内のエネルギー代謝に関与し,尾部の運動と,余剰細胞質の除去による正常形態形成に必須であることを明らかにした。本研究の結果は日本生殖医学会と日本解剖学会およびScientific Reports誌で発表した(Ito et al,Sci Rep.13:2969.2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実験計画(4)に基づきODF4遺伝子改変マウスと野生型マウスを用いてODF4の機能解析を行なった。①capacitation前後の精子をSMASで測定し,運動率, 直進速度, 平均速度を求めて比較解析を行なった。次に尾部中間部中心,主部近位1/3と主部遠位1/3の地点のbeat数を比較解析した。HAS-U2 cameraおよびDIPP-Motion V software (DITECT)を用いてハイスピード撮影し,尾の動きのカウントを用いて行なった。②Capacitation前後の精子(1x104 sperm)のATPとADPをそれぞれ抽出して測定解析した。さらに当初の計画に加えて,ODF4欠損成熟精子では,Adenylate kinase 1及び2(AK-1,2)が減少していることを新たに発見し,野生型精子を用いた免疫沈降によってODF4とAK-1と2が共在していることを証明した。以上の結果および先行研究課題からの研究結果をまとめて,第67回日本生殖医学会学術講演会,第128回日本解剖学会全国学術集会で発表するとともに,Scientific Reports誌に投稿し,受理された(Ito et al,Sci Rep. 13(1):2969.2023. (doi: 10.1038/s41598-023-28177-z)。
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今後の研究の推進方策 |
当初の実験計画の(1)と(3)を実施する。 (1)エクアトリん(EQTN)と相互作用を行うタンパク質の解明:野生型精子またはEqtn-Egfpトランスジェニック(Tg)マウスの精子または精巣のタンパク質をRIPA bufferを用いて抽出し、抗EQTN抗体(ウサギポリクローナル)または抗GFP抗体(マウスモノクローナルIgG抗体)を使って免疫複合体を形成し、それぞれProtein A beads、Protein G beadsを使って免疫沈降し、western blotを行う。Western blotでは、SPESP1, IZUMO1, ZPBP1など精子先体に局在するタンパク質の抗体を試す。(3) ODF2 isoformと精子中心体及び外側粗大線維との関係の解析:①Odf2-c-EGFP Tg精子とOdf2-a-mCherry Tg精子をRIPA bufferを用いて抽出し、精子中心体関連タンパク質を用いてwestern blotを行い2)の通り数値化する。②Odf2-c-EGFP Tg精子とOdf2-a-mCherry Tg精子を強力な界面活性剤で処理し外側粗大線維を露出させた後、そのままか抗GFP抗体処理を行い蛍光顕微鏡で観察して、isoformの違いによって局在に違いがあるか解明する。
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