研究実績の概要 |
人工子宮をヒトに臨床応用するためには,出生前からあらかじめ胎児の血液型に適したプライミング液で人工胎盤回路を充填しておくことが課題となる.溶血性副作用を回避するためにはO型Rh (D) 陰性血の赤血球製剤を準備する必要があるが,資源が豊富ではない.そこで免疫原性をもたない人工赤血球 (人工酸素運搬体) をプライミング液に用いることに着目し,本研究ではその有効性と安全性を検証する. ヒツジ胎仔を妊娠95日に対照群と人工胎盤のプライミング液の違いにより3群に分ける (各群 n=6; a) 対照群; b) 人工子宮+成人ヘモグロビン群; c) 人工子宮+人工赤血球群).それぞれ妊娠95-100日の身体発育を計測し,剖検後に脳MRIと組織病理学的検索で中枢神経合併症を解析する. 上述したa) 対照群ではそのまま母体の子宮内で胎仔を育てるが,b), c) 群では胎仔を妊娠95日から5日間人工子宮システムで成育させる.人工子宮内のすべての胎仔で動脈圧,心拍数,胎盤回路圧,胎盤血流量を連続監視する.また6時間毎に臍帯動脈血液ガス分析でpH, pCO2, pO2, HCO3-, BE, 総Hb量, Hb分画 (COHb, O2Hb, MetHb, HHb), Ht値, 乳酸値, 血糖値, 電解質を確認する.妊娠100日に母獣子宮もしくは人工子宮から胎仔を取り出し,脳MRIを撮影し,虚血性病変の有無を検索する.以上の項目を3群間で統計学的に比較し,人工赤血球をプライミングに用いた人工子宮システムの有効性と安全性について考察する. 令和4-5年度は対照群1例,成人ヘモグロビン群2例,人工赤血球群2例を実施した.人工赤血球群では凝固因子の補充やニトログリセリンの投与量の調整などを必要とする可能性が指摘され,胎仔管理方法について再検討中である.
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