研究課題/領域番号 |
22K09564
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
松岡 知奈 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, リサーチアソシエイト (40941050)
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研究分担者 |
梶原 一紘 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 周産期・母性診療センター, 医員 (40569521)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 胎盤オルガノイド |
研究実績の概要 |
妊娠高血圧症候群(HDP)は未だ病態が不明であり確立された予防法・治療法が存在しない疾患である。胎盤形成において、絨毛細胞は母体の螺旋動脈に浸潤し、血管平滑筋を破壊することで螺旋動脈が拡張し胎盤への十分な血流が確保され胎盤が発育する。この過程がリモデリングであり、胎盤形成の要となる過程であるが、このリモデリングが障害されるとHDPが発症するとされており、HDPのほぼ全例でこのリモデリング不全が認められる。臨床的に虚血再灌流障害とferroptosisとの関連性が報告されていること、胎盤研究で一般的に用いられるBeWo細胞におけるferroptosisの感受性の高さから、我々は新たなHDP病態解明のため、ferroptosisに着目する。 当研究室においてiPS細胞から胎盤オルガノイドの作製に成功しており、この技術を活用し、HDPの病態解明を進めていく。また、ferroptosis感受性が高いと言われるミトコンドリア病由来iPS細胞も有することから、疾患iPS細胞由来の胎盤オルガノイドも作製し、この2種のferroptosis感受性の差を利用して、対象-疾患iPS細胞比較から胎盤オルガノイドでのferroptosis動態を解析し、HDPとferroptosisの関与を検証することで病態解明を進めていく。このように胎盤オルガノイドを用いてHDPの病態解明、ひいては産科研究バイオモデルとしての確立を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
月経血細胞由来のiPS細胞から、胎盤オルガノイドの作製に成功した。胎盤オルガノイドの分化培養液を妊娠検査薬で確認すると陽性反応が見られ、胎盤オルガノイドからのHCG分泌も確認された。この胎盤オルガノイドの特性解析を行い、免疫染色やqPCR法によってSyncytin、KRT7やCGBなどの胎盤特有の分化マーカーの発現の確認、未分化マーカーの発現低下も示された。これらのマーカーの発現は、ヒト胎盤検体には及ばなかったが、絨毛癌株細胞であるBeWo細胞と同等程度の発現は得られた。その他、血管内皮細胞マーカーであるCD31の免疫染色では、胎盤オルガノイドにおいて血管構造は認められなかったものの、CD31陽性細胞を認め、血管成分の存在も示唆する結果であった。 さらに、同様の方法で、ミトコンドリアDNA枯渇症候群の疾患iPS細胞からの胎盤オルガノイドの作製にも成功した。この異なる2種類のiPS細胞由来の胎盤オルガノイドに、ferroptosis誘導剤であるRSL3を添加すると、LDH値が上昇し、ferroptosis抑制剤であるFer-1の添加でこれらは抑制され、ferroptosisによる細胞死を胎盤オルガノイドでも誘導することができた。また、Ferroptosisに特徴的な脂質過酸化を検出できるBODIPY染色においても、胎盤オルガノイドへのRSL3の添加で染色され、ferroptosisの誘導が確認できた。 興味深いことに、ミトコンドリア病の疾患iPS細胞から誘導した胎盤オルガノイドの方がferroptosis感受性が強い傾向が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに作製した胎盤オルガノイドをプラットフォームとして、HDPの病態を反映する産科研究バイオモデルへ開発していく。まず妊娠中の虚血再灌流障害のモデルとして、胎盤オルガノイドを低酸素培養後に通常の条件での培養に変更し、ferroptosisの誘導性について解析する。次に、HDPの病態形成の中核をなす母体の血圧上昇に関与するsoluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFLT-1)/soluble endogline (sENG)の定量を、胎盤オルガノイドの1)低酸素培養による絨毛虚血誘導、2)RSL3によるferroptosis誘導の2つの条件下で行う。ここでは、正常iPS細胞(月経血由来iPS細胞)とミトコンドリア病疾患iPS細胞からそれぞれ胎盤オルガノイドを作製し、比較解析していく。 最終段階として、実際に臨床で使用されている妊娠高血圧症候群治療薬(プラバスタチン,プロトンポンプ阻害剤など)を用いて、HDP-胎盤オルガノイドモデルのヒト産科研究バイオモデルとしての有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の納品が遅れたため。次年度に物品費として使用する。
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