研究実績の概要 |
経口糖尿病治療薬であるメトホルミン(Metformin: MET)は、近年、臨床の場での観察研究や無作為化比較試験において、癌に対する増殖抑制効果や化学療法感受性の増加効果が報告されている。しかし、卵巣癌において他の組織型に比して化学療法抵抗性かつ予後不良とされる卵巣明細胞癌に対するMETの影響についての知見は乏しい。申請者はMETの卵巣明細胞癌に対する抗腫瘍効果の分子メカニズムについて、卵巣明細胞癌細胞株、培養実験、遺伝子解析実験の資材とノウハウを生かして解析することを目的とした。 in vitroの実験として、卵巣明細胞癌細胞株(OVISE, RMG-1)を用いて、METによる細胞増殖能/生存率の効果を検討したところ、METの濃度依存的にcell viabilityが抑制されることが判明した。RMG-1細胞における抗癌剤シスプラチン投与下でのMETの細胞増殖能/生存率に対する効果をWST-1assayで評価したところ、METの濃度依存的にcell viabilityが抑制されていた。同様にパクリタキセル投与下でのMETの細胞増殖能/生存率に対する効果を評価したがMETの投与の有無による差は見られなかった。こちらは、両抗癌剤の作用機序の違いがMETの作用の有無に影響していると考えられた。RMG-1細胞におけるMETの細胞周期に与える影響をAPC-Cy7染色でのフローサイトメトリーで評価したところ、MET投与群はコントロール群に比べ有意にG2/M期の割合が高かった。さらにMETによる細胞内分子伝達機構についてイムノブロットを用いて確認したところ、MET投与群はコントロール群に対して有意にAMPKのリン酸化が促進され、またmTORのリン酸化を抑制していた。以上よりMETはAMPK/mTORのシグナルを介して細胞増殖抑制を起こしている可能性があると考え、研究を継続している。
|