研究課題/領域番号 |
22K09626
|
研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
加藤 容二郎 昭和大学, 医学部, 講師 (80408632)
|
研究分担者 |
青木 武士 昭和大学, 医学部, 教授 (30317515)
吉武 理 昭和大学, 医学部, 准教授 (50297446)
山海 直 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター, 再雇用職員 (80300937)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 子宮移植 / トランスレーショナルリサーチ / 心停止ドナー / 動物実験モデル / カニクイザル心停止ドナー子宮移植 / ピッグ自家子宮移植モデル |
研究実績の概要 |
先天的、後天的に子宮の無い女性が子どもを望む場合、国内で認められているのは養子縁組のみである。海外では上記女性を対象に子宮移植の臨床試験が始められているが、まだ一般普及には至っていない。普及しない理由の一つとして、子宮移植の生体ドナー(=提供者)の手術が難渋で、ドナーのリスクが高いことが問題となっている。本研究で、カニクイザル心停止ドナー子宮移植モデルを確立し、心停止ドナーから提供される子宮による出産の可能性および安全性を明らかにし、子宮移植の一般普及への一助を目指す。 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 霊長類医科学研究センターへ共同利用施設利用の申請をしたところ、サルを用いた生体での研究を行う前に、サル以外での動物での検証を指摘されたため、当初の予定通り、サル屍体を用いた実験手技の検証から開始しつつ、それと並行してピッグを用いた子宮移植実験を開始した。 1)安楽殺後のサルを用いたドナー手術手技確認:今後サルで実験を開始するための準備として、安楽殺後のカニクイザル1頭を用い、子宮グラフト摘出の訓練を行った。手術開始から子宮グラフト摘出まで13分であり、以前、本研究代表者が行った生体ドナーモデルカニクイザル子宮移植では同手技に平均5時間以上要しており、本術式を用いることにより、短時間で子宮グラフトを摘出できることを確認した。 2)ピッグを用いた子宮移植手術:ピッグでの検証を行うにあたり、ピッグ子宮移植モデル作成が必要であるが、3Rの法則に従い、使用頭数を最小限にするため、ピッグ自家子宮移植モデル作成から始めることにした。自治医科大学 先端医療技術開発センターで開腹手術の見学による解剖確認から開始し、他実験後や安楽殺前のピッグを用い、1件目)子宮摘出、2件目)子宮摘出~灌流~血行再建を行い、3件目)実験未使用のピッグを用い、子宮摘出~灌流~血行再建+血流評価を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)安楽殺後のサルを用いたドナー手術手技確認:以前のサル生体ドナー子宮移植モデルと同様に、摘出部位は子宮のみならず両側子宮動静脈~内・外・総腸骨動静脈~卵巣静脈~左腎静脈~大動脈・下大静脈と広範囲に周囲組織ごと摘出することができた。その結果、心停止下ドナーからの場合、極短時間で必要な血管を温存しつつ摘出可能な事を証明できた。今回のサル屍体は、安楽殺時に固定液による全身灌流がされていたため、摘出後の子宮グラフト灌流、経時的な病理組織学的変化の検討は行えていない。 現時点での問題点として、安楽殺後の屍体でのトレーニングしか行えていないことが挙げられる。その理由として、コロナ禍に伴い、サル個体単価が高騰(450-550万円/頭:2022年)し、各サル研究施設での個体確保・購入が困難となっており、当研究で使用するサルの確保も困難となっていることが挙げられる。 2)ピッグを用いた子宮移植手術:文献検索上、家畜ブタ子宮移植での成績を確認すると、子宮グラフト摘出後、灌流成功率約37%、灌流成功後・血管吻合後血流確認率約57%(全体の約21%)と成功率が低い事を理解していたが、今回、2件目の子宮グラフト摘出後の灌流は良好で、子宮グラフトが白色になったが、3件目は摘出前に片側の子宮動脈および片側の卵巣静脈をクランプしても血流が保たれることの確認を試みたため、結果として子宮がうっ血してしまった後の摘出となり、灌流不良となった(灌流成功率50%)。病理組織上、3件目のグラフトには血栓が認められ、子宮グラフトは静脈鬱血に対する耐性が低いことが分かったため、次回以降の実験で、静脈鬱血に注意したい。現時点では、残念ながら再灌流後(=血管吻合後)に良好な血流は得られなかったが、これら結果から手術手技、手順を修正し、ピッグ子宮自家移植モデル作成に成功した後、ピッグ心停止ドナーモデルでの検証を行いたい。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画発案当初と違い、新型コロナウイルスの流行によるサル個体価格の高騰や供給不足が、今後の研究を進めるにあたり足かせとなっている。本研究の目的は、カニクイザルを用い心停止ドナー子宮移植の安全性を確認することであるが、研究課題名「少子化対策としての心停止下提供子宮移植普及へ向けた基礎研究(動物実験モデル)」にあるよう、動物実験モデルによる研究のため、カニクイザル以外の動物(ピッグなど)での検証も進めることにより、本研究を遅滞なく進めなくてはいけない。カニクイザルでの子宮移植研究は、すでに実験モデルとして立ち上がっているため、サルの入手ができれば研究を進められるのに対し、ピッグでの子宮移植研究は、個体確保が比較的容易であるが、新たに有効な実験モデルの確立するところから始める必要があり、両研究に一長一短がある。 1)サル心停止提供下子宮移植の研究について:本研究の問題点は個体確保にあり、安楽殺された屍体サルでさえ、本研究用には1頭/年の確保が限界であった。他実験使用後の生体サル(100万円/頭予定:時価)をレシピエントとして、安楽殺予定のサル(時価)をドナーとして確保することにより1組実験を行えるため、(ピッグでの研究の進捗を踏まえ、)サル個体を確保でき次第、本研究を進めていく。それまでの間、屍体サルでもできる限りの範囲で研究を進めていく。生体サル個体確保困難な場合は、ピッグでの研究への完全移行も視野に入れたい。 2)ピッグ心停止提供下子宮移植の研究について:本研究では、個体確保は比較的容易であるが、より確実に血管吻合ができるよう出産歴のある実験用ミニブタを使用するため、年間に確保できる頭数もカニクイザルほどではないが限られている。そのため、今までの実験結果を基に、極少数で成功率の高いピッグ自家子宮移植モデルを立ち上げ、ピッグ心停止提供下子宮移植研究を開始したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により、カニクイザル価格が450-550万円/頭まで高騰し、新規に生体サルの購入、確保ができなかったこともあり、当初の予定のように生体サルを用いた実験を進められず、屍体サル1頭のみでの実験となり、次年度使用額が生じた。現時点の時価では新規の生体サルをペアで購入することができないため、実験使用後の生体サル(100万円/頭:時価)の確保およびその実験費用へ、今回生じた次年度使用額を充当したい。 また、この間に行ったピッグ自家子宮移植での実験関連費用は、本研究費へは請求していないため次年度使用額が生じているが、出産歴のある実験用マイクロミニブタ価格も約40万円/頭と高額であり、生体サル個体確保の目途が立たない場合は、ピッグでの研究を進めるため、ピッグ心停止提供下子宮移植研究用のピッグの購入およびその実験費用として使用する計画もある。 動物実験で心停止ドナーから提供された子宮移植の安全性・妊孕性を明らかにし、臨床応用の実現化の基盤形成を行うというゴールの達成へ向けて、本研究費を用い、研究実施計画に基づき戦略的に研究を遂行していきたい。
|