研究課題/領域番号 |
22K09648
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
荒木 慶彦 日本大学, 医学部, 客員教授 (70250933)
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研究分担者 |
吉武 洋 順天堂大学, 大学院医学研究科, 非常勤講師 (00396574)
小宮 ひろみ 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (10272072)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | OVGP1 / 受精 / 着床 / 初期胚発生 / ハムスター / マウス / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
哺乳動物では卵管は生理的受精の場であり、子宮に着床するまで浮遊性多能性細胞(初期胚)にとって、その正確な発生能を維持する上で重要な環境を提供している。従って、その機能維持には様々な分子機構が存在すると考えられる。しかし、近年の生殖補助技術の普及に伴い、その存在意義は軽視される傾向があった。 本研究は、卵管の生殖過程における生理的役割についての新概念を確立するために、代表者らが最近樹立した卵管液性因子OVGP1欠損ハムスター、及び20年前に発表した同分子欠損マウス(この二種のモデル動物は相同分子(OVGP1)を欠損するものの、正常な妊孕性(マウス)/胚の胎生致死(ハムスター)という生殖生理上、最も重要な表現型が真逆になる)を併用し、これらモデル動物の初期胚・卵管微小環境を詳細に比較検討している。 本年度は、これら新旧動物モデルにおける卵管内の初期胚のメタボローム解析を中心に行い、着床前にその環境によって受精卵の運命を決める分子動態のデータを集めた。その結果、前年度に引き続きハムスターにおいての卵管液等のメタボローム解析により、OVGP1欠損により変動する分子群を同定した。今後これらの分子の変動、及び卵管上皮の形態学・生化学的変化をさらに多角的に確認する。二種類のモデル動物におけるそれら分子群の比較検討によって、「ヒト卵管はどちらの動物種に近いか」等も含め、今後のヒト不妊治療における胚の中・長期的予後を知る上での卵管内における受精卵・初期胚の分化制御機構の基礎的分子基盤構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OVGP1を欠損した(KO)ハムスターの配偶子は受精する能力は部分的には確認される。しかし、受精してもその直後から初期胚発生は明らかに阻害され、受精卵は、一部は胚盤胞まで分化して着床するが最終的には正常な胚発育は出来ない。その結果産仔は得られない。この現象はKO動物の卵巣を野生型(WT)動物に移植することでその機能は回復される。これらの事実から、このKO動物における胚性致死は受精卵自体の異常ではなく、それを取り巻く状況、即ち卵管微小環境による後天的な運命制御機構に依存することが強く示唆される。従ってOVGP KOハムスターとWTハムスターの受精卵・初期胚を着床まで経時的に採取し、それらのメタボローム解析により、その究極の多分化能細胞(受精卵)内部・外部で何が起こっているか分子論的なレベルで解析した。 その結果、まず受精前の卵管においてOVGPの有無でタンパク質レベルで発現の変動を示す分子群を同定した。次年度は引き続きマウスモデルも加えそれらの分子群の挙動を詳細に評価する予定である。 なお助成金の未使用額が発生しているが、この状況は近年の円-ドル為替レートの大幅な変動等により、最終年度に予定している研究成果発表にかかるコスト(英文校正・論文発表、国内外学会出張費等)の増額が見込まれるために、その対策として余剰金を残したものである。研究成果(生データ)そのものは、ほぼ順調に知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、ハムスターと対照的な表現型を示すマウスにおいて同様の解析を進めるとともに、受精後着床前における分子群の変動を両動物で確認し、更なる分子基盤の構築を目指す。これらの分子基盤を明らかにするとともに、今まで原因不明であった不妊・不育症などの新しい病態像の提唱を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物の繁殖状況が動物次第なため、試料を凍結保存して更なる解析を行なっている。そのために解析費用を次年度分として申請する。
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