研究課題/領域番号 |
22K09671
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
杉山 庸一郎 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50629566)
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研究分担者 |
梅崎 俊郎 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 教授 (80223600)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 嚥下 / 喉頭 / 電気生理 / 神経生理 |
研究実績の概要 |
超高齢化社会における嚥下障害への治療戦略は大きなパラダイムシフトに迫られている。サルコペニア嚥下障害の増加、COVID-19感染拡大によるリモート診療の必要性など様々な病態、診療形態に対応するためには、画一的かつオンデマンドといういわば相反する嚥下障害治療スキームを開発する必要がある。本研究では嚥下制御メカニズムの中心である延髄に存在する嚥下セントラルパターンジェネレーター(CPG)の機能に基づいて、薬剤投与による嚥下CPG促通効果、頸部干渉波電気刺激+高電圧パルス電流の相互作用による嚥下改善効果、嚥下障害モデル動物を用いた頸部干渉波電気刺激+高電圧パルス電流による嚥下改善効果の検討を行うことを目的とする。 灌流動物モデルを用いた嚥下改善効果を検証すべく、TRPV1受容体作動薬など薬剤投与時の嚥下惹起性の影響を検討した。その結果、TRPV1受容体作動薬投与により、濃度および暴露時間依存性に嚥下惹起性が改善することが示唆された。また、干渉波電気刺激を用いた頸部への感覚刺激が嚥下促通効果をもたらす基盤となる理論構築のため、頸部への干渉波電気刺激による脳幹ニューロン活動性の変化を検討した。その結果、頸部干渉波電気刺激により延髄孤束核を含む嚥下CPGニューロンの活動性が増加することが示唆され、その他の脳幹の領域における干渉波電気刺激の影響が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
嚥下制御メカニズムの中心である嚥下中枢の機能に基づいて、様々な嚥下障害に対する治療法の統合効果について検証するために、頸部干渉波電気刺激+高電圧パルス電流による嚥下改善効果および薬剤投与による嚥下中枢促通効果を動物実験により検証するために現在も研究を継続中である。これまでの進捗状況としては、灌流動物モデルを用い、カプサイシン等のTRPV1受容体作動薬を投与し、投与中の嚥下惹起性について様々な濃度で経時的に検討した。その結果、薬剤の濃度に依存して嚥下惹起性改善効果がみられ、経時的にその改善効果が変化した。一方、頸部への電気刺激の効果が嚥下中枢の機能にどのように反映されているかを検証するために、延髄に存在する嚥下セントラルパターンジェネレーター(CPG)のニューロンの活動性を評価した。その結果、干渉波電気刺激による嚥下促通効果が期待される刺激強度において、延髄孤束核を含む嚥下CPGニューロンがコントロールと比べ有意に増加していることが確認された。この結果により、頸部干渉波電気刺激は嚥下CPGニューロンの活動性を増加させ、嚥下促通効果を及ぼすことが示唆された。また、経口薬剤投与による嚥下促通効果は薬剤の濃度および暴露時間に依存して変化することがわかり、嚥下促通効果を長時間期待できる薬剤の適正濃度および持続時間について新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究結果および進捗状況をもとに、薬剤による嚥下促通効果の詳細なメカニズムの検討を行う。TRPV1受容体作動薬についても、より詳細に嚥下CPGへの影響、適切な薬物動態と嚥下惹起性の関与、間欠的あるいは持続的投与による影響なども検討する。他の薬剤についてもその効果を検証し、適切な薬剤投与のアルゴリズム構築を目指す基礎データ取得を試みる。また、干渉波電気刺激の嚥下CPG促通効果の詳細なメカニズム解明を進めるのと同時に高電圧パルス刺激による効果も検証する。干渉波電気刺激に加え、高電圧パルス刺激の同時刺激が可能となる電気刺激装置の改良を促進し、より適切な刺激条件を検討、その結果にもとづいて頸部への電気刺激による嚥下動態の変化について嚥下造影検査等により評価する。 一方、薬剤投与における嚥下改善効果については、灌流動物モデルにより得られた知見を用いて、適切な刺激強度および薬剤投与法について嚥下造影検査等による嚥下動態解析を行い、実際の摂食・嚥下における嚥下促通効果について検討する。 これらの研究により電気刺激療法、化学刺激療法の最適化のための基盤となるデータを得ることが出来れば、更に詳細な嚥下CPGニューロン活動解析あるいは嚥下障害モデル動物を用いた嚥下改善効果の検証が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は嚥下制御メカニズムの中心である嚥下中枢の機能に基づいて、様々な嚥下障害に対する治療法の統合効果について検証するために、頸部干渉波電気刺激による嚥下改善効果および薬剤投与による嚥下促通効果を動物実験により検証した。そのために必要な実験動物、電極、薬剤等を購入し、概ね予定通り研究を進めてきた。一方では総合的に研究遂行をスムーズにするために、灌流動物モデルによる嚥下促通効果の検討だけでなく、次年度以降に予定している干渉波電気刺激療法の嚥下中枢における効果の検討を含め並行的に研究を行ってきた。そのため、次年度使用するための研究物品を先行して購入したのに加え、逆に本年度遂行予定の物品購入について次年度に移行することとなった。研究の遂行自体は順調に進んでいるため、予算の使用額の差額は本年度予定していた実験器具も含め次年度使用予定である。
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