研究課題
COVID-19で生じる嗅覚障害のメカニズムはいまだに十分解明されていない。SARS-CoV-2に対するワクチンや治療法開発のために感染モデルとして利用された非ヒト霊長類のカニクイザルあるいはアカゲザルの剖検組織を嗅覚障害の発症機序解明を目的に観察した。SARS-CoV-2に感染したカニクイザルでは、感染3日目と7日目の早期に嗅上皮の支持細胞、嗅神経細胞、固有粘膜層の神経軸索にウイルス蛋白が認められた。また、嗅上皮にはリンパ球や好酸球などの炎症細胞浸潤、粘液の増加、粘液中の炎症細胞の増加、浮腫、細胞外マトリックスの沈着、上皮の剥脱、毛細血管の拡張、メラノサイトの浸潤など多彩な炎症性病理変化が観察された。さらに上皮下には胚中心を伴う誘導型鼻関連リンパ組織inducible nose-associated lymphoid tissue(iNALT)が形成され、IgA, IgG抗体が産生され、活発な免疫反応が生じていた。HLA-DRはMHCクラスII分子のひとつで、マクロファージ、樹状細胞、活性化T細胞、B細胞などの抗原提示細胞に発現し、食作用で取り込んだ外来抗原をヘルパーT細胞などに提示して、免疫応答の開始に重要な役割を有する。嗅上皮では、HLA-DRはマクロファージなどの炎症細胞以外に、支持細胞に発現していた。支持細胞の機能はまだ不明な点が多いが、抗原提示能を有する免疫担当細胞であると考えられる。おそらく、嗅上皮から嗅神経を介した頭蓋内感染を防止するため、支持細胞が免疫担当細胞として生体防御の最前線に存在すると推測される。嗅糸においても多くのHLA-DR陽性細胞が認められた。
2: おおむね順調に進展している
予備検討を重ねて、安定して目的の組織を収集することが可能となった。嗅球にウイルス蛋白やウイルスRNAが存在することから嗅球の検討を追加した。
嗅球や脳組織は当初検討項目には入っていなかったが、個体を絞って検討を追加し、嗅球を介した頭蓋内感染について、またその防御システムについて検討したい。これまでの成果を国内外の学会や論文で公表する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Journal of Neuroimmunology
巻: 387 ページ: -
10.1016/j.jneuroim.2024.578288