研究課題/領域番号 |
22K09756
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
楯谷 智子 京都先端科学大学, 健康医療学部, 教授 (10512311)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有毛細胞 / 蝸牛 / 発生・分化 / Atoh1 / 転写 |
研究実績の概要 |
難聴は、すべての年齢層において最も頻繁に見られる感覚障害である。難聴の多くは聴覚の感覚細胞である有毛細胞の再生能力不足に起因しており、有毛細胞再生が可能となる新規治療法の開発が待たれている。転写因子Atoh1は有毛細胞分化を決定づけるマスター遺伝子であり、発生段階においては単独で有毛細胞分化を誘導することが可能である。そのため、有毛細胞再生目的でAtoh1を発現させる外来遺伝子の導入が多く試みられてきたが、未だ効果は限定的とされている。Atoh1は小脳の顆粒細胞など他臓器の細胞分化も司り、内耳特異的なAtoh1発現促進機構は未だ不明である。これを明らかにすることは、内耳特異的に内在性Atoh1発現を促進して有毛細胞再生を誘導できるより効果的な方法の開発につながる可能性がある。 予備研究の結果より、小脳顆粒細胞の発生に必要な配列の候補(領域X)、および内耳有毛細胞の発生に必要な配列の候補(領域Y)のそれぞれが、Atoh1プロモーターの特定の領域に含まれることが示唆された。本研究では領域Yのなかで内耳特異的Atoh1転写促進配列を同定し、それに相互作用する未知の転写因子やエンハンサーを見い出すことによって、内耳特異的なAtoh1転写促進機構を解明することを目指した。 2023年度はAtoh1転写に関与するエピジェネティクスに着手した。Atoh1の転写開始点付近1kおよび遺伝子本体の塩基配列はGCリッチな配列が多く、ほとんどの領域がCpGアイランドの定義を満たしていた。E16.5、P0、P22マウス内耳感覚DNA上皮を用いた全ゲノムバイサルファイトシーケンス解析から、Atoh1遺伝子座とその周辺のメチル化を調べた。すると、Atoh1の数k塩基下流の領域がP22でメチル化されていた以外は、顕著なメチル化は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、領域Xと領域YのDNAメチル化の相違が臓器特異的転写制御に関与している可能性につき検討するため、Atoh1遺伝子座とその周辺のDNAメチル化を調べたが。P0まではメチル化は認められなかった。Atoh1による内耳有毛細胞の運命決定はP0にはほぼ終了しているため、Atoh1プロモーター領域のメチル化は臓器特異的転写制御に関与していないと考えられた。ここまでの進捗はほぼ予定通りであったが、実験結果が内耳特異的Atoh1転写制御の解明に寄与しなかったため、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、特異的Atoh1転写促進配列の同定を同定するため、領域Xは含まず、領域Yを含み、予備実験で欠失させたよりは狭いゲノム領域を欠失させたマウス(Line-E)をゲノム編集法で作製した。予想では小脳に異常はなく、内耳にのみ異常があるマウスが得られるはずであったが、予想に反してそのホモ欠失マウスは小脳だけでなく内耳も正常であった。Line-Eの欠失ゲノム領域はコアプロモーターを含んでおらず、予備研究で作製・解析されたマウスは欠失ゲノム領域にコアプロモーターの一部を含んでいただめに、表現型に相違が現れた可能性も考えられた。また、予備研究のマウスのうちプロモーター領域の欠損が5’側に最も多く転写開始点をも欠失しているLine-Dでも蝸牛有毛細胞にAtoh1発現が認められたため、元の転写開始点がなければクロマチン構造制御によって他の適した箇所から転写が始まる可能性も考えられた。これからゲノムDNAの折り畳みで転写制御が成立している可能性につき検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究物品購入費を不用品再利用等で節約できたこと、学会参加を現地参加ではなくオンライン参加にしたこと等により、次年度使用額が生じた。
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