研究課題
我々は新規光感受性クロライドイオンチャネルChimGt12を始めとした様々な特性を持つオプトジェネティクス遺伝子を開発している。動物実験において、視細胞へChimGt12を変性前に発現させることで、局所において視細胞変性を遅延させることに成功した。しかしながら、視細胞をターゲットとした遺伝子導入のためアデノ随伴ウイルス(AAV)の網膜下投与を行った結果、遺伝子導入部位が投与部に限局されていた。この結果として、網膜電図において評価が困難であった。一方、硝子体内投与は視細胞への到達は困難であるが、広範囲に導入するには理想的である。本研究では、広範囲に遺伝子導入を行うためのベクターおよび細胞へのAAV送達を改善する薬剤について検討を行う。我々が行ったこれまでの実験において、既存報告のあるAAVのVP3キャプシドにコードされたチロシン残基変異体の硝子体内投与においても、投与遺伝子の視細胞への到達による発現は、十分ではなかった。そこで本年は、表面抗原と網膜におけるAAV受容体の結合のモデリングを行い、AAVの細胞への結合を変化させる候補capsidをデザインした。今後、細胞への感染効率および網膜組織への遺伝子導入効率を調べ、候補を絞る。内境界膜の分解酵素として、植物由来酵素に着目し研究を行っている。培養細胞を用いた事前実験において、植物由来酵素がAAVの血清型に依存せず、使用した全ての血清型においてAAVの遺伝子導入効率を改善した。そこで本年度は、処理時間および濃度等について、細胞毒性を調べると共に、遺伝子導入効率について調べた。今後は、遺伝子導入効率の改善が見られ、30時間の継続暴露においても毒性の見られなかった酵素濃度において、内境界膜分解と遺伝子導入効率の改善を調べる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、硝子体投与において内境界膜においてトラップされず、また、網膜内部までAAVが到達するためにAAV結合サイトのモデリングを行い、AAVの細胞への結合を変化させる候補capsidをデザインした。今後、これらについて、細胞培養および組織培養を用い、遺伝子導入効率および細胞毎の遺伝子導入効率を観察する予定である。組織培養としては、豚眼およびラットを用いたIn Vitroでの評価系を検討している。また、我々は既に、植物由来酵素がAAVの血清型に依らず、細胞への遺伝子導入効率を改善することを確認している。そこで、導入改善が可能な濃度における毒性評価を詳細に行った。その結果、酵素の存在下においては細胞接着力の低下が見られるが、24時間までの処理後、培地交換を行った群においては細胞数の減少はなかったが、酵素処理30時間では細胞の減少が観察された。一方、培養開始時点からの植物由来酵素添加では細胞数の減少が見られた。植物由来酵素添加時に細胞の結合力低下が見られたことから、細胞を浮遊させた状態でAAVの感染を行ったが、浮遊感染では遺伝子導入効率の増加が見られなかったことから、細胞とAAVの接する面積の変化による影響ではなく、酵素処理によりAAVの細胞膜への結合変化が起きていると考えられた。
AAV結合サイトのモデリングにより得られた、AAVの細胞への結合を変化させる候補capsidを含むベクターを遺伝子改変により作製する。作製したベクターからAAVを精製し、AAVの感染基準細胞であるHT1080細胞を用い、感染効率の変化を調べる。しかし、AAVの受容体との結合を変化させているため、HT1080での感染効率と標的細胞(視細胞や網膜色素上皮細胞)との遺伝子導入を反映していない可能性も考えられる。そのため、豚眼あるいは、げっ歯類の眼球を用いた組織培養において、網膜における部位発現を確認する。植物由来酵素を用いた遺伝子導入においては、植物由来酵素(15mg/ml)暴露では細胞毒性が示唆されたため、硝子体内投与を考慮する場合は、低濃度で遺伝子導入改善効果が見られるか、が鍵となる。30時間においても毒性のない濃度であり、遺伝子導入効果もみられた植物由来酵素(5mg/ml)において、遺伝子導入効率の改善が見られるか、組織培養を用いて調べる。硝子体投与においては、植物由来酵素が内境界膜の細胞外マトリックスタンパク質を分解し、網膜組織への到達を高める可能性がある。また、植物由来酵素の感染効率改善に関するメカニズムについて、細胞へのAAV結合および内在化(細胞内へのAAV遺伝子の取り込み)能力の改善の面から調べる。更に、フローサイトメーターにより、遺伝子発現レベルが1細胞において亢進しているかを調べ、植物由来酵素のAAV遺伝子発現増加への影響を明らかにする。
バイオインフォマティクスを用いたAAVベクターのデザインに時間が必要となったため、In vitroでの検証は翌年に行う予定である。導入効率を改善する薬剤については、遺伝子導入改善濃度で毒性が見られたため、In vitroにおいては処理時間および方法の検討を行い、毒性のない条件を決定した。今後、組織培養による毒性評価と安全性を調べる予定であり、組織評価および培養等に予算を使用する。
すべて 2022 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 備考 (3件)
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