研究課題/領域番号 |
22K09760
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
菅野 江里子 岩手大学, 理工学部, 准教授 (70375210)
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研究分担者 |
富田 浩史 岩手大学, 理工学部, 教授 (40302088)
田端 希多子 岩手大学, 理工学部, 特任准教授 (80714576)
小松 三佐子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 客員研究員 (00525545)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アデノ随伴ウイルス / 視細胞 |
研究実績の概要 |
我々は新規光感受性クロライドイオンチャネルChimGt12を始めとした様々な特性を持つオプトジェネティクス遺伝子を開発している。実験において、視細胞変性前の視細胞へChimGt12を発現させることで、局所において変性を遅延させることに成功した。しかしながら、視細胞をターゲットとした遺伝子導入のためアデノ随伴ウイルス(AAV)の網膜下投与を行った結果、遺伝子導入部位が投与部に限局されていた。我々の遺伝子は、視細胞変性を阻止する効果を期待しており、想定している希望遺伝子導入部位は、網膜周辺部を含めた広範囲である。そのため、より広く視細胞への遺伝子導入を行うAAVが必要である。硝子体から視細胞へ遺伝子を到達させるAAVベクターについて報告のあるものの、我々のラットを用いた実験結果では、効率が極めて低いものであった。 本研究では、広範囲に遺伝子導入を行うためのベクターおよび細胞へのAAV送達を改善する薬剤について検討を目的としている。昨年までに、AAV表面抗原と感染細胞のAAV受容体の結合のモデリング解析から、AAVの細胞への結合を変化させる候補capsidのデザインを終えている。本年度は、様々な細胞株を用いた感染効率の比較検討を行った。その中で、視細胞のモデル株としても使用されているY79細胞に対し、感染効率が高いconstructを発見した。このconstructは、使用した他の細胞株では導入効率が低いにも関わらず、Y79で顕著に高い感染効率を示した。この結果から、視細胞選択性が期待される。今後は動物実験あるいは組織培養において、発現効率を既存のAAVと比較し検討する予定である。組織培養については、本年度、培養後の網膜崩壊日数について検討を行った。次年度は、この方法を改変し、遺伝子導入効率を検討する材料として使用し解析すると共に、安定的な発現解析用組織培養の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、硝子体投与時に内境界膜においてトラップされず、また、網膜内部までAAVを到達させるために、AAV結合サイトのモデリングを行い、AAVの細胞への結合を変化させる候補capsidをデザインした。具体的には、AAV表面抗原と感染細胞におけるAAV受容体の結合のモデリング解析を行った。 本年度は、モデリングにより得られたconstructionを遺伝子改変により作製し、AAV精製を行った。このAAVを用い、様々な細胞株を用いた感染効率の比較検討を行った。その中で、視細胞のモデル株としても使用されているY79細胞に対し、感染効率が高いconstructを発見した。このconstructは、使用した他の細胞株では導入効率が低いにも関わらず、Y79で顕著に高い感染効率を示した。Y79をはじめ、視細胞様とされている細胞がいくつか存在するが、視細胞への遺伝子導入を確認するためには、未だ動物実験による確認が必要である。本年は、実験動物を使用せず解析するために、食肉加工場から豚眼を入手し、培養可能な条件および網膜崩壊日数について検討を行った。今後はこの組織培養を用い、construct及び透過性を向上させる試薬の検討を行う予定である。 我々は既に、植物由来酵素がAAVの血清型に依らず、細胞への遺伝子導入効率を改善することを確認しているが、この薬剤の効果についても実験動物ではなく、本年度検討した組織培養を使用することで、多くを解析できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
Y79細胞に対し感染効率が高いconstructを含め、感染効率の向上が見られたconstruct数種について、網膜を用いて、遺伝子導入効率および選択性を調べる。しかし、動物愛護の観点から極力、実験動物の使用を避けた解析を心掛けたい。そのため、本年度行った食肉加工場から入手した検体眼球を用いた組織培養を行い、解析を進めたい。しかしながら、凡その網膜培養可能日数と網膜崩壊性を調べているが、採取時・採取後の状況が異なるためか、安定した結果を得られていない。培養条件においても改善が必要とも考えられる。このような状況下においても、網膜組織培養は、個体数を増やすことで、解析可能ではある。次年度は、より安定した組織培養の条件検討と遺伝子発現解析を行う。一方で確実な方法として、限られた実験動物個体で遺伝子発現を調べたい。 また、我々は既に植物由来酵素がAAVの血清型に依らず、細胞への遺伝子導入効率を改善することを確認しているが、前年の研究により遺伝子導入改善をもたらす濃度において、30時間暴露で細胞毒性を示した。このことから、眼内においては遺伝子導入効率改善として使用するには難しい可能性がある。しかし、低濃度において、内境界膜等に与える影響および副次的にAAV導入効率を改善する可能性を考え、網膜組織培養を使用し、植物由来酵素濃度と内境界膜に与える影響およびAAV感染について調べたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
Y79へのAAV感染判定が難しく、時間を要した。また、細胞株を数種使用した為、時間を要した。網膜組織培養は、入手検体の輸送等を含めた問題もあり、安定した結果を得ることが難しい可能性があるため、事前の使用眼球の選択が必要かと思われる。組織培養の確立に時間がかかり、感染確認として使用するに至らなかった。今後、組織培養を用いた評価を進める予定である。また、本研究の主目的である遺伝子導入に適したベクターの開発のため、実験動物数を絞り実験を進める。予算は、実験動物の飼育管理、摘出眼球および網膜組織培養における発現評価・安全性評価に使用する予定である。
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