研究課題/領域番号 |
22K09778
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
齋藤 文典 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (50435723)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アデノ随伴ウィルス / 網膜 / ミュラー細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、哺乳類の網膜ミュラー細胞の脱分化および増殖を促進する因子をミュラー細胞に過剰発現することにより、傷害網膜の再生を賦活化することを目的としている。申請者らは、これまでにアルキル化剤であるMNUを投与した網膜傷害モデル動物を用いて網膜傷害後にマウスのミュラー細胞は全く増殖しないこと、ラットでは多くのミュラー細胞が増殖するが、DNA損傷を起こして、網膜再生前に死滅することを報告した。また、傷害網膜における両動物間の遺伝子の比較解析を行い、脱分化および増殖を促進するに関与する候補因子を同定した。 本年度はGFAPプロモーターの下で目的遺伝子を発現するAAVベクターを作製した。AAVのパッケージングにはミュラー細胞と親和性が高いshH10を用いた。はじめに、マウス網膜のミュラー細胞への遺伝子導入の特異性および効率をEGFPを発現するAAVを用いて詳細に解析した。EGFPを発現するAAV (~1 x 10^12 vg/μl)を3週令のマウス硝子体内に2μl注入して、2週間後に解析を行った。EGFPとミュラー細胞マーカーであるGSとの免疫染色の結果、傷害を誘導していない網膜でミュラー細胞に特異的なEGFPの発現を確認した。また、MNUの投与により網膜傷害を誘導したミュラー細胞においてもEGFPが特異的に発現することも確認した。 増殖を促進する因子を導入したマウスを作製し網膜傷害を誘導した結果、多くのミュラー細胞が細胞周期に進入することが明らかになった。コントロールとして用いたEGFPを発現するマウスでは、AAV非感染のマウスと同様に細胞周期に進入するミュラー細胞は見られなかった。これらの結果から、哺乳類の網膜においても、ミュラー細胞の脱分化・増殖に不足している因子を導入すること導入することで、網膜再生能が賦活化される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
網膜傷害時に増殖能の高いラットを用いて目的因子を過剰発現する実験を開始したが、ラットの眼球はマウスと比較し体積が大きいため、遺伝子の導入効率を上げるために多くの高濃度のAAVが必要となった。AAVの作製および精製には多くの時間を要するため、マウスを用いて実験をすることにした。目的遺伝子の過剰発現はCMVプロモーター下で誘導する計画をしたが、ミュラー細胞以外の細胞(双極細胞および神経節細胞)にも導入遺伝子の発現が見られたため、使用するプロモーターをGFAPプロモーターに変更した。そのため研究の進行がやや遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
増殖を促進する因子を導入したマウスではミュラー細胞の増殖が促進され、良好な結果が得られている。次年度は、計画に基づいて脱分化を促進する因子を導入したマウスおよび、増殖と脱分化の両方を促進する因子を導入したマウスを作製する。これらのマウスで網膜傷害を誘導し、細胞増殖マーカーの免疫染色およびTUNEL染色を行い、増殖能および細胞死への影響を評価する。また、増殖マーカーと神経細胞マーカーとの免疫染色を行い神経細胞への再分化を追跡する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度未使用分15,953円は、来年度分とあわせて消耗品の購入など実験計画に沿って使用する予定である。
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