研究課題/領域番号 |
22K09802
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 香る 関西医科大学, 医学部, 准教授 (50866209)
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研究分担者 |
松尾 禎之 関西医科大学, 医学部, 講師 (50447926)
高橋 寛二 関西医科大学, 医学部, 教授 (60216710)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 抗VEGF抗体 / 抗菌薬適正使用 / 結膜嚢細菌叢 / 鼻腔粘膜細菌叢 / 常在菌 / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、キノロン系点眼薬の反復予防投与が選択圧となり薬剤耐性菌発現をもたらすと共に、結膜嚢や鼻腔粘膜の常在細菌叢変化(dysbiosis)にも繋がることを証明し、抗菌点眼薬の適正使用を啓発するための科学的根拠を得ることにある。
そこで、抗VEGF抗体の硝子体注射に際して、抗菌点眼薬を注射前後に予防的に反復投与された症例を対象とした。抗菌薬点眼複数回投与による結膜嚢・鼻腔常在細菌叢の変化を検討するために、20回以上硝子体注射を受けた約30症例から、結膜嚢および鼻腔粘膜から検体を採取し、細菌の分離同定を行った。コントロールとして、年齢をあわせた硝子体注射実施前の約20症例から同様に検体を採取し、同様に細菌の分離同定を施行した。両群ともに、各人に十分な研究についての説明を行い、文書にて同意書を取得した。さらに経時的な結膜嚢・鼻腔常在細菌叢の変化を明らかにするために、硝子体注射複数回ごとに結膜嚢や鼻腔の検体を採取した。すべての検体から分離された細菌について、CMX,CAZ,LVFX,GFLX,MFLX,CP,IPMに対するMIC(最少発育阻止濃度)を作成し、各ブレイクポイントを参照に感受性を確定した。 すでに注射前群および硝子体注射20回以上施行群の予定全検体の培養・菌種同定・感受性試験は終了しており、5種類の抗菌薬に対する感受性率およびMIC値の推移の統計解析に入っている。また結膜検体については細菌叢検出のためのDNA抽出も終了している。経時的な変化検討のための検体は引き続き、継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検体採取に関して、患者に十分な説明を得て解析に必要な検体数の収集が行えている。現在までに解析されたデータの傾向として20回注射群において感受性率の低下、MICの上昇が確認されている。線形モデル推定値を用いて解析をしたところ、数種では統計学的な有意な変化であることが確認されている。つまり、当初推測された抗菌薬点眼使用による影響が出現している可能性が高いと考える。今後の耐性遺伝子の検出について分離菌株を適切に保管している。引き続き検討するPCRの構築は完了し、適切なプライマーを準備中である。また、細菌叢変化を検討するための、結膜嚢擦過物のDNA抽出も終了している。細菌叢検討のための次世代シークエンサーの構築も終了した。従って、本研究は着実に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
得られたデータを基に抗菌薬投与前群と頻回投与後群において、薬剤のMICの比較および感受性率の比較検討を行う。さらに結膜嚢と鼻腔の常在細菌叢の変動の対比により、抗菌点眼薬の全身(鼻腔)の常在細菌叢への影響の有無を解析する。同一対象患者においては、反復投与による経時的変化について、引き続き検体採取を継続し、同様な検討を行う。 一方、耐性遺伝子については、プライマー決定次第、薬剤感受性およびMICで変化のあった分離菌すべてについてPCRを用いて耐性遺伝子の検出を継続して行う予定である。耐性遺伝子の候補としては、下記のとおりである。 具体的には、標的酵素であるDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVなどのキノロン耐性決定領域(QRDR)のアミノ酸残基の置換を引き起こすgyrA/gyrB、grlA 遺伝子を中心に、抗菌薬排出機構を構成するnfxB, nfxC, norB, norC, cfxB遺伝子。またプラスミド性耐性遺伝子として、キノロン耐性遺伝子qnr、メチシリン耐性遺伝子mecAなどが候補である。 これらの結果をもとに、抗VEGF抗体硝子体投与に伴う耐性菌出現とdysbiosisの全体像を明らかにし、広域抗菌薬予防投与法を改定するための基礎データを得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は検体採取の準備および実施に関わる時間が多く、また培養同定、感受性試験に関わる費用であったため、予定より少額となった。しかし、この本年度、取得した菌株および検体について、2023年度には次世代シークエンサーによる細菌叢解析とPCRによる耐性遺伝子の検討を行う予定であり、2023年度により多くの研究費が必要と試算している。また、データが全て出た時点で、論文作成、学会発表を行う予定であり、本年度はそれにかかわる費用も使用していない。そのため、2023年度使用額が生じたが、全体の使用計画としては変更がないものと考える。
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