研究実績の概要 |
本研究の目的は、神経麻痺性角膜潰瘍の根底にあるメカニズムを理解するために、神経伝達物質の一つであるsubstance P (SP)が、IL-1などの種々の因子で刺激された角膜線維芽細胞によるuPAの発現やコラーゲン分解にどのような影響を与えるかについて、角膜線維芽細胞をコラーゲンゲル内で3次元的に培養するin vitroモデルを用いて検討することである。 令和4年度は、まずはじめにヒト培養角膜線維芽細胞を用い、SP添加による細胞生存率をcell viability assayで検討した。その結果、SPの濃度に依存して、有意に細胞増殖を促進した。次にSP単独、あるいはIL-1, IL-6, TGF-beta, IGF-1の存在下でのSPの有無によるコラーゲン分解能を、fibrin zymographyによるuPAの発現、およびbヒドロキシプロリン測定による定量化試験で検討した。その結果、すべての群においてSPはuPAの発現およびコラーゲン分解能に影響を与えなかった。この結果により、SPがケラトサイトによるコラーゲン分解能に単独で影響を与えないだけでなく、IL-1, IL-6, TGF-beta, IGF-1の存在下においてもコラーゲン分解に影響を与えないことが明らかになった。 そこで、SP単独、あるいはIL-1, IL-6, TGF-beta, IGF-1の存在下でのSPの有無によるコラーゲン合成能を検討した。その結果、SPは単独ではコラーゲン合成に影響を与えなかったが、TGF-betaの存在下でSPはTGF-beta単独に比べ、コラーゲン合成を有意に促進させた。またMMP-1をコラーゲンの分解能の指標に、1型コラーゲンをコラーゲン合成能の指標に設定し、real time PCRにより角膜線維芽細胞のMMP-1および1型コラーゲンの発現を検討したところ、TGF-betaの存在下でSPを加えると、1型コラーゲンのmRNA量は有意に上昇していた。
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