研究課題/領域番号 |
22K09902
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
青山 絵理子 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (10432650)
|
研究分担者 |
滝川 正春 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (20112063)
久保田 聡 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (90221936)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | S-アデノシルメチオニン / 軟骨細胞 / 細胞外基質 / ポリアミン / DFMO / MAT2A |
研究実績の概要 |
生体内代謝産物であるS-アデノシルメチオニン(SAM)は抑うつや肝疾患の改善効果が期待されている。近年、これらの作用に加えてSAMは関節炎にも有効である可能性が指摘されてきている。そのため、SAMによる軟骨細胞の分化促進機構を詳細に解明するために以下の検討を行ってきた。今年度は前年度の成果を踏まえてポリアミン産生経路に着目してさらに研究を進めた。その結果、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法によってSAMを培養系に添加した状態で16時間および24時間培養した培養軟骨細胞内でポリアミン(スペルミンおよびスペルミジン)が増加していることを明らかにした。また、生体内におけるSAMの主要な産生酵素であるMAT2Aの発現を遺伝子干渉法を用いて抑制すると細胞内SAM濃度が低下することを確認し、同時に各種の軟骨基質構成因子やスペルミジンの前駆体であるプトレシンの合成酵素であるオルニチン脱炭酸酵素(ODC)などの遺伝子の発現も抑制されることが明らかにした。さらに、ODC阻害剤であるジフルオロメチルオルニチン(DFMO)の存在下においてSAMによる基質産生への促進的な効果は発揮されなくなり、SAMによるアグリカンや糖鎖合成酵素の遺伝子発現誘導は部分的に抑制された。このことからSAMによる軟骨細胞の基質産生促進作用は少なくとも一部はポリアミン合成経路を介していると考えられる。これらの結果はラット培養軟骨細胞およびヒト培養軟骨細胞でほぼ同等の結果が得られることを確認している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養軟骨細胞を用いてSAMによる基質産生促進作用の作用機構を明らかにすることができた。当初の実験計画のおよそ半分超を終了しており、この内容をまとめた論文は国際学術誌に投稿し、すでに掲載されていることから概ね順調であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの成果によりSAMが軟骨細胞の基質産生および糖鎖合成を遺伝子レベルで促進し、その作用は少なくとも一部はポリアミン合成経路を介していることが明らかになった。しかし、ポリアミン産生促進と遺伝子発現促進の間にどのような作用機序が存在するのかは全く分かっていない。ポリアミンはその性質上、周囲と独立した細胞内でポリアミン液滴を構成する可能性が言われている。今回見られたようなポリアミン合成を介した遺伝子発現がこれらのポリアミン液滴の内部で行われているかどうかを明らかにすることで、ポリアミン産生促進と遺伝子発現促進との間に存在するブラックボックスを解明出来る可能性がある。 さらに、これまでの結果は関節軟骨などの永久軟骨におけるSAMの作用機構を解明したものであるが、成長軟骨におけるSAMの作用についてはまだ解明されていない。成長期の身長の伸長率は主に長管骨の成長板と呼ばれる成長軟骨で構成される部分の増殖、分化に依存しており、この部分におけるSAMの作用を明らかにすることで、これまで言われていたような関節炎の改善効果だけでなく、成長期の骨の伸長を促進する因子としても応用が期待される可能性がある。このことから比較的未分化な軟骨細胞の分化期にSAMがどのように影響するかという点についてin vivoおよびin vitroの実験系を用いて検討を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
動物実験計画書の準備が間に合わなかったため動物実験が次年度に持ち越された。最終年度には実験動物を行うためその費用が必要となる。
|