• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

性差から解き明かす新たな認知症制御機構

研究課題

研究課題/領域番号 22K09904
研究機関九州大学

研究代表者

溝上 顕子  九州大学, 歯学研究院, 准教授 (70722487)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード性差 / アルツハイマー型認知症 / テストステロン / オートファジー
研究実績の概要

本年度の主な成果は以下の3点である。(1)テストステロンがミクログリアのオートファジー経路を亢進する経路がGPRC6Aを介したものであることを明らかにした。我々は、昨年、マウスミクログリア由来細胞株MG6をテストステロンで刺激するとERK-mTORシグナル伝達経路を介してAβ刺激によるオートファジーが亢進することを明らかにしている。shRNAを用いてGPRC6AをノックダウンしたMG6細胞をテストステロンで刺激しても、ERKのリン酸化は抑えられておらず、オートファジーの亢進も見られなかった。GPRC6A阻害剤を作用させた細胞でも同様にテストステロンの効果は見られなくなった。以上のことから、テストステロンによるオートファジー亢進作用はGPRC6Aを介したものであることが示唆された。 (2) テストステロンはミクログリアにおけるNF-κB炎症シグナル伝達経路を抑制し、炎症性サイトカインの分泌を抑えることを示した。これは、テストステロンが脂肪酸合成酵素FASNの発現を抑えることによって細胞内MYD88のパルミトイル化が抑えられたことによるものである。(3)アルツハイマー型認知症モデルマウス5xFADを用いて、テストステロンがアミロイドβの蓄積を抑制することを明らかにした。雌雄の5xFADマウスの脳組織切片をミクログリアマーカーであるIba-1, オートファジーマーカーであるp62, およびAβの抗体を用いて免疫染色したところ、3つが共局在する細胞が認められた。雌雄でAβの蓄積を比較したところ、雄の蓄積量が有意に少なかった。また、精巣除去マウスでは偽手術を行った同週齢の雄マウスと比べてAβがより多く蓄積していた。このことは、5xFADマウスの脳においてミクログリアがオートファジーによってAβの少なくとも一部を処理しており、テストステロンがそれを亢進する可能性を示唆している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は、ミクログリアにおいて、テストステロンがGPRC6Aシグナルを介してAβが誘発する炎症反応を抑えるメカニズムを明らかにし、ADにみられる性差の背後にある分子基盤の一端を解明することである。培養細胞を用いた実験で、in vitro実験で観察されたテストステロンの効果がGPRC6Aを介したものであることを検証できた。ADモデルマウスを用いた検証も進んでいる。現在はGPRC6A欠損マウスを用いた動物実験を行う準備に入っており、本研究は計画どおり順調に進展している。

今後の研究の推進方策

今後は、主に疾患モデルを用いた、テストステロン/GPRC6AシグナルによるAD発症抑制の検証を行う。雌雄のGPRC6A 欠損マウス脳組織切片をミクログリアマーカーで染色し、定常状態でのミクログリアの密度や形態を比較する。この実験により、恒常的なGPRC6Aシグナルが雌雄のミクログリアの性質に与える影響が判明する。また、約4ヶ月齢よりAβの蓄積がみられる5xFADマウスと交配し、GPRC6A欠損アルツハイマー型認知症モデルマウスを作製する。雌雄のモデルマウスを用いて同様の実験を行い、ADの発症とその程度を比較する。GPRC6Aを欠損していないマウスでは、オスのAD発症がメスよりも遅れることが予想される。しかし、GPRC6A欠損ADモデルでは、メスと同程度、あるいはメスよりも発症が早くなることが予想される。一方、GPRC6Aはテストステロンに加えて特定のアミノ酸にも応答することが知られている。アミノ酸はオートファジーの誘導にも関わるため、アミノ酸の影響も考慮しながら実験を進める。この実験によって、GPRC6Aを介したテストステロンの、AD 発症における役割が判明する。

次年度使用額が生じた理由

一部の実験動物の使用について、共同研究先と調整中でまだ開始できていないものがあるため、それにかかる費用を使用していない。 次年度以降、調整でき次第動物実験を開始し、予算を使用する計画である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)

  • [国際共同研究] 北京理工大学(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      北京理工大学
  • [国際共同研究] Principe Felipe Research Center(スペイン)

    • 国名
      スペイン
    • 外国機関名
      Principe Felipe Research Center
  • [雑誌論文] The role of microRNAs in understanding sex-based differences in Alzheimer’s disease2024

    • 著者名/発表者名
      Llera-Oyola Jaime、Carceller Hector、Andreu Zoraida、Hidalgo Marta R.、Soler-Saez Irene、Gordillo Fernando、Gomez-Cabanes Borja、Roson Beatriz、de la Iglesia-Vaya Maria、Mancuso Roberta、Guerini Franca R.、Mizokami Akiko、Garcia-Garcia Francisco
    • 雑誌名

      Biology of Sex Differences

      巻: 15

    • DOI

      10.1186/s13293-024-00588-1

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] The role of adhesion molecules in osteocalcin-induced effects on glucose and lipid metabolism in adipocytes2024

    • 著者名/発表者名
      Otani Takahito、Mizokami Akiko、Takeuchi Hiroshi、Inai Tetsuichiro、Hirata Masato
    • 雑誌名

      Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Cell Research

      巻: 1871 ページ: 119701~119701

    • DOI

      10.1016/j.bbamcr.2024.119701

    • 査読あり
  • [学会発表] アルツハイマー型認知症の性差におけるmiRNAの関わり2024

    • 著者名/発表者名
      溝上 顕子, 鄭 昊林, 佐野 朋美, 山脇 洋輔, Francisco Garcia-Garcia, 兼松 隆
    • 学会等名
      第17回 日本性差医学・医療学会学術集会
  • [学会発表] アルツハイマー型認知症の発症・進展の性差におけるテストステロンシグナルの役割2023

    • 著者名/発表者名
      溝上 顕子, 杜 海妍, 佐野 朋美, 山脇 洋輔, 自見 英治郎, 兼松 隆
    • 学会等名
      第97回 日本薬理学会年会
  • [学会発表] GPRC6A-mediated testosterone signaling induces microglial autophagy2023

    • 著者名/発表者名
      杜 海妍, 溝上 顕子, 佐野 朋美, 山脇 洋輔, 自見 英治郎, 兼松 隆
    • 学会等名
      第96回 日本生化学会大会
  • [学会発表] Elucidating the role of microglia in molecular basis of sex differences in Alzheimer's disease2023

    • 著者名/発表者名
      杜 海妍, 溝上 顕子, 佐野 朋美, 山脇 洋輔, 自見 英治郎, 兼松 隆
    • 学会等名
      第65回歯科基礎医学会
  • [学会発表] Sex hormone testosterone inhibits NF-κB inflammatory pathway in microglia2023

    • 著者名/発表者名
      鄭 昊林, 溝上 顕子, 兼松 隆, 佐野 朋美, 山脇 洋輔, 自見 英治郎,
    • 学会等名
      第65回歯科基礎医学会

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi