研究課題/領域番号 |
22K09911
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 智香 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (50739349)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 皮質骨多孔化 / 骨細胞 / 二次性副甲状腺機能亢進症 / 骨細胞性骨溶解 |
研究実績の概要 |
本研究では、骨細胞ネットワークによるPhex/SIBLING axisを介した石灰化成熟の促進・抑制や、骨細胞による骨細胞性骨溶解誘導の可能性を検索するとともに、腎機能障害で発症する二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)における皮質骨多孔化の原因として、骨細胞ネットワークの石灰化成熟の抑制と骨ミネラル溶出による骨小腔の拡大と血管侵入が引き金になる可能性を検索した。本解析に際し、ラットに5/6腎臓摘出と高リン食負荷を行い、SHPTを伴う腎不全モデル(CKD-SHPTラット)を作成し、大腿骨皮質骨を中心に検索を進めた。その結果、CKD-SHPTラットでは、血清PTH、Pi、FGF23濃度の上昇およびCa濃度の低下を示すSHPTが惹起されており、皮質骨多孔化と骨強度の低下が生じていた。controlラットの皮質骨では、骨細胞性骨溶解(骨細胞周囲骨基質ミネラルの溶解)はほとんど認められず、むしろ、一部の骨小腔で石灰化沈着が観察された。このような骨細胞はSIBLING family(MEPE, DMP1)を発現しており、石灰化抑制を行うpASARMペプチド(SIBLING familyの分解産物)は認められなかった。ところが、CKD-SHPTラットでは、多数の骨細胞がAcid phosphataseやプロトンポンプ陽性を示し、骨細胞性骨溶解が生じていた。また、骨細胞・骨小腔におけるSIBLING familyの過剰沈着やPhex/cathepsin Bの発現上昇、pASARMペプチドの蓄積が認められたことから、周囲骨基質の石灰化抑制が推測された。さらに、同部位では、破骨細胞を伴う血管侵入が認められたことから、SHPTにおける骨細胞異常と骨小腔拡大は皮質骨多孔化に至る起点となり、拡大した骨小腔へ破骨細胞と血管が侵入することで皮質骨多孔化が亢進すると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在、前項で記載した解析結果に続き、カルシウム受容体作動薬を投与したCKD-SHPTラットでは、血清PTH、FGF23濃度が低下し骨細胞性骨溶解・骨細胞死が抑制されること、また、皮質骨多孔化も抑制されることを見出している。CKD-SHPTラット皮質骨の骨細胞では、PTH受容体、FGFR1、Pit1/Pit2の発現が認められることから、血中に過剰に存在するPTH、Pi、FGF23のいずれかが、これら骨細胞異常を誘導する可能性を推測した。そこで、培養骨細胞株(MLO-Y4)を用いたPTH、Pi、FGF23添加実験を行ったところ、特にPiに反応して骨細胞性骨溶解や石灰化抑制に関連する遺伝子の発現が上昇し、Pi濃度依存的に細胞死が誘導された。さらに、PTHは、Pit1/Pit2の発現を上昇させることで、細胞外Piによる骨細胞死・骨細胞性骨溶解・再石灰化抑制を増強させる可能性が示唆された。従って、CKD-SHPTラットにおいて、カルシウム受容体作動薬は血清PTH濃度を低下させることでPTHとPiによる相加作用を抑制し、骨細胞異常により誘導される皮質骨多孔化を抑制する可能性を推測している。令和4年度は、これらの知見に基づいた論文報告を行っており、当初予定よりも早いペースで計画が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の解析から、CKD-SHPTラット皮質骨において、骨細胞性骨溶解や骨細胞異常・骨細胞死が生じている部位に破骨細胞や血管が集積していることを確認している。従って、CKD-SHPTでは、これらの異常が皮質骨多孔化に至る起点となること、また、拡大した骨小腔へ破骨細胞と血管が侵入することで皮質骨多孔化が亢進する可能性が推測される。しかし、これらの異常を呈する骨細胞が破骨細胞や血管を誘導するメカニズムは明らかにできておらず、今後、同メカニズムの解明が必要と考えられる。今後は、皮質骨骨細胞における破骨細胞誘導因子や血管新生因子の発現や局在変化などの検索を進めてゆく。また、カルシウム受容体作動薬の投与により、骨細胞性骨溶解やPhex/SIBLING axisなど石灰化調節に寄与する因子のみならず、破骨細胞誘導因子や血管新生因子の発現が変化するのか解析を行う。さらに、カルシウム受容体作動薬による皮質骨多孔化抑制は、血清PTH濃度低下のみで生じるのか、あるいは、カルシウム受容体作動薬による直接作用も存在するのか、明らかにしてゆきたいと考えている。
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