研究実績の概要 |
腫瘍組織内の細胞外pHは酸性を示すことは古くから知られている。私達は、これまでに高転移性マウス B16-BL6メラノーマにおいてMMP9の発現がpH 5.9 で強く誘導されることを見出し、その詳細について報告してきた。昨年度、B16-BL6細胞における酸性pHにより発現が変動する遺伝子を酸性pH誘導型、抑制さ れる遺伝子を酸性pH抑制型遺伝子とし、これらの遺伝子について、ヒト腫瘍における生存期間について検討した。発現誘導と一致した動態を示す場合をヒット数としてカウントした。酸性pH誘導型遺伝子、酸性pH抑制型遺伝子それぞれにおいて、ヒット数上位の遺伝子のうち酸性pH誘導型遺伝子としてSP100、酸性pH抑制型遺伝子としてSLC18A1について注目し、8種類の細胞株(メラノーマ(A2058, A375C5)、頭頚部扁平上皮癌(HSC3, HSC4, SAS)、肺癌 (A549, H1299, HT1080))で検証実験を行った。SP100は現在までに6つのスプライシングバリアントが確認されているため、それぞれの発現における酸性の影響を調べたところ、バリアント2の遺伝子発現レベルが最も高く、次いでバリアント1の発現が高かった。それ以外のバリアントの発現レベルは約1/10000だった。A357C5、SAS、H1299、HT1080で、酸性pHによりバリアント2の発現が上昇した。酸性pH抑制型遺伝子として分類されたSLC18A1遺伝子は、2種類のメラノーマのみで発現しており、期待に反して酸性pHに反応して発現誘導された。今後、これらの遺伝子発現と酸性pHによる誘導のメカニズムについて細胞レベルで検討していく。
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