研究課題/領域番号 |
22K09931
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤原 恭子 日本大学, 歯学部, 准教授 (40595708)
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研究分担者 |
井上 聡 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (40251251)
高山 賢一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 専門副部長 (50508075)
長崎 瑛里 日本大学, 医学部, 研究医員 (70845354)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ポリエチレングリコール / 口腔がん |
研究実績の概要 |
土壌微生物由来の新規ポリエチレングリコール化合物PEG-Xは、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体I活性を阻害し、酸化的リン酸化(OXPHOS) を抑制することで、細胞のATP産生を低下させ、腫瘍細胞の細胞死を誘導することが判っている。最近我々は、PEG-Xががん抑制遺伝子TP53に変異のある細胞に対し特に強い毒性を示すことを見出した。70%以上の口腔がん細胞がTP53の変異を持つこと、TP53変異細胞は既存の抗がん剤や放射線療法が効きにくいことから、PEG-Xは有効で副作用の少ない新規の抗がん剤として非常に有望であると考えられた。そこで、PEG-XがTP53変異型細胞特異的に毒性を示す分子機序を解明し、最終的に更に有効ながん治療法の開発を目指すことを目的として本研究を立ち上げた。 令和4年度は、PEG-Xが実際にOXPHOS以外の経路にも作用している可能性について確証を得るための実験を中心に行った。解析では、TP53変異型と野生型の細胞各3種類にPEG-Xを投与し、細胞内ATP濃度の変化を調べた。10μMのPEG-X投与後4時間後のATP濃度はTP53野生型細胞と比べて変異細胞で明らかに低下していたが、呼吸鎖複合体Ⅰの阻害剤であるロテノンを10nM投与した場合は、TP53変異の有無とATP濃度の低下率の関連が明確でなかった。そこで、TP53の変異の有無の影響をより正確に検討するため、TP53をノックアウト(KO)した細胞とコントロール細胞を用いて同様の実験を行ったところ、TP53-KO 細胞はコントロールと比較して、PEG-Xによる生存率抑制効果が高かったが、ロテノンに対しても同様の傾向を示した。一方、PEG-X投与後のATP濃度の低下率にはKOとコントロールで違いがみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度から5年度半ばにかけては、呼吸鎖複合体I以外のPEG-Xの標的を探索し、これらの標的に対するPEG-Xの作用がTP53変異の有無で異なるか検討する予定であったが、その解析に進む前に、PEG-Xが実際にOXPHOS以外の経路にも作用している可能性について、より確証を得るための実験を組み込んだため、やや遅れているとした。令和4年度に得られた結果のうち、TP53KOはコントロールと比べてPEG-X投与後の生存率が低下するが、ATP濃度の低下量に差はないというデータは、「PEG-XがOXPHOS以外の作用標的を持ち、そこにTP53変異の有無が関連する」とする、当初の仮説を裏付けるが、一方、PEG-XとロテノンがともにTP53-KO細胞の生存率をコントロールよりも強く抑制するという結果は、この仮説と矛盾する。ただ、同じがん腫であっても、当然ながらその性質には多様性があるため、現在複数の細胞株を用いてTP53のノックダウン(KD)を行い、PEG-Xやロテノンに対する感受性、ATP濃度の低下率がどのように変化するか検討を進めている。現時点ではPEG-X投与後の細胞生存率は、コントロールと比べてTP53-KD細胞で低いことが複数の細胞株で確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
siRNAを用いてTP53野生型細胞でTP53のノックダウン(KD)を行い、PEG-X投与後のATP濃度の低下率を検討する。効果が明確でない場合はshRNAを用いて、安定的なTP53抑制株を樹立し、同様の実験を行う。TP53-KD細胞で、PEG-X投与後のATP濃度の低下率がコントロールと比べて高かった場合は、各細胞からミトコンドリアを抽出し、呼吸鎖複合体IのPEG-Xによる阻害効果についてもTP53の変異の有無で違いがあるか検討する。もしも、TP53-KDとコントロール細胞で、PEG-X投与後のATP濃度の低下率には差が見られなかった場合、やはりPEG-XはOXPHOS以外に作用標的を持ち、そこにTP53の変異の有無で差がみられる可能性が高くなるため、TP53が関与しうる経路について順次検討を進めて行く。まず最初に、PEG-X投与後の活性酸素の産生量、二本鎖DNA切断の頻度、小胞体ストレス応答因子の発現を調べ、これらにTP53変異の有無で差があった場合に、次の解析へ進む。解析は当初の予定通り、TP53野生型細胞と変異型細胞の比較を行うともに、野生型細胞のTP53をKDしたものとコントロール細胞の間での比較も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を検討していた試薬類の納期が間に合わないため、次年度に購入することにした。
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