研究課題/領域番号 |
22K09934
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
倉田 俊一 神奈川歯科大学, 歯学部, 特任教授 (60140901)
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研究分担者 |
加藤 伊陽子 神奈川歯科大学, 歯学部, 特任教授 (20333297)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 頭頸部扁平上皮癌 / p63 / 浸潤 / 神経 |
研究実績の概要 |
令和4年度(2022年度)は頭頸部扁平上皮癌由来細胞株からゲノム編集によって作ったp63ノックアウト細胞に関して、遺伝子発現の解析を行うとともに、マトリゲルフィルターによる神経周囲浸潤(PNI)のアッセイ系の構築に向けて実験を進めた。成果を以下に要約する。 (1) ゲノム編集細胞としてはすでに中咽頭扁平上皮癌由来FaDu細胞株からCRISPR-Cas9法で構築したTP63遺伝子のノックアウト細胞株で、TP63発現全体が停止することが確認されたので、本研究でPNI活性を親細胞と比較する実験に用いることとした。 (2) 遺伝子発現のマイクロアレイ解析を行ったところ、ノックアウト細胞は上皮間葉転換(EMT)を示す明確な変化を示した。加えて NEFL, NCAM1、NRCAM、NEUROD2、SEMA3D/4G/5Bほか神経発生と関連する遺伝子発現の大幅な上昇が検出された。その一部についてRT-qPCRとウエスタンブロットで確認を進めた。 (3) 神経周辺浸潤(PNI)活性のアッセイ系を構築するために、まず一般的な浸潤アッセイとしてMatrigelチャンバーを用いて、血清を誘因剤として下層に移動する細胞を測定した。浸潤効率はノックアウト細胞で親細胞の2倍に上昇していた。癌組織は不均一な細胞集団であるが、TP63発現が低下してEMTを示す細胞は集団的な浸潤を先導することが最近報告され、その観察と一致している。さらに誘因細胞としてシュワン細胞に由来する細胞株を用いる浸潤アッセイの条件を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高分化型扁平上皮癌細胞からエピゲノム調節により分化を誘導する遺伝子をノックアウトし、上皮間葉転換(EMT)が起こったとみなされる細胞を構築できた。一般的な浸潤アッセイでEMT細胞が効率よく浸潤することを確認し、神経周辺浸潤(PNI)のアッセイ系に向けて基盤ができた。 ただ、EMTと浸潤は深く関連するものの、細胞接着を失ったEMT細胞そのものが浸潤癌の本体になるとは限らない。本課題では神経系細胞への指向性がどのような因子や遺伝子発現で得られるのかについて今後明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度: (1)PNIアッセイ系で誘因細胞(神経系細胞株)および被検細胞(扁平上皮癌由来細胞株)として使用する細胞の検討し、培養条件等の改良を行う。すでにシュワン細胞の性質を持つ腫瘍由来の細胞株を培養しており、扁平上皮癌の浸潤を誘導するかどうかを検討する。さらに、初代培養(ラット・脊髄後根ガングリオン)を試す。一方、被検細胞としては別の分化型扁平上皮癌、上記p63ノックアウトによる上皮間葉転換細胞株、浸潤癌由来の細胞など、浸潤能を異にする細胞を用いて検討を行う。(研究代表者) (2)神経への指向性を決定する遺伝子を検索する。上記の頭頸部癌由来の細胞で、マイクロアレイまたは(および)RT-qPCRによって、神経指向性の受容体や接着因子の遺伝子発現パターンを調べ、PNIアッセイの結果と対応させる。(研究分担者) 令和6年度: (1)培地に血清濃度や調節因子の添加を試み、より効率的なPNIが得られる条件を決定する。誘因側の神経関連細胞と浸潤する側の扁平上皮癌細胞にsiRNAをトランスフェクトし、特定遺伝子のノックダウンを行い、PNI誘導に必須の遺伝子を検索する。またp63を失うと細胞骨格や接着分子の発現が大きく変化するので、蛍光抗体法により細胞の形態変化を観察する。(研究代表者) (2)種々の細胞株の遺伝子発現とPNI活性の関連づけ、PNI誘導に寄与する遺伝子を推測し、ノックダウン実験に供する。誘因操作によるmRNAとタンパク質の変化を解析する。(研究分担者)
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: 研究機材(消耗品物品)、海外セルバンクからの細胞株に関しての手続きや輸入が遅延しており、期限内に入手ができなかったため、本年度の支出費が抑えられた。それに伴って実験内容を変更して研究を実施した。 使用計画:次年度に繰り越した額を使用して、予定通り物品および細胞株を購入して研究を進める。
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