研究課題
歯髄炎症反応では歯髄内圧が亢進し、三叉神経節細胞(ニューロン)の圧迫が生じる。本研究では「歯髄炎時に三叉神経節細胞が放出する物質を同定し、その物質を介した三叉神経節細胞-象牙芽細胞間逆行性ネットワークが象牙質形成や象牙質痛をどのように調節するか」を革新的な問いとしており、歯髄炎時の象牙芽細胞変化と第3象牙質形成や歯の疼痛制御に対する歯髄炎の影響を解明したい。2022年度は以下の3点を明らかにした。1)三叉神経節細胞への機械刺激は刺激された細胞だけでなく、周囲の三叉神経節細胞の細胞内Ca2+濃度を増加した。その増加は刺激強度依存性を示し、脱感作は見られなかった。さらに、カルバマゼピンの投与で抑制された。このことから三叉神経節細胞間連絡の存在が示唆された。2)三叉神経節細胞-象牙芽細胞共培養系において、三叉神経節細胞への機械刺激は近傍象牙芽細胞の細胞内cAMPレベルを距離依存性に増加した。その細胞内cAMPレベル増加はCGRP受容体アンタゴニストの投与により有意に減少した。これらの結果から、機械刺激により三叉神経節細胞がCGRPを放出し、そのCGRPが象牙芽細胞のCGRP受容体を活性化するというCGRPを介した三叉神経節細胞-象牙芽細胞間連絡の存在が示唆された。3)象牙芽細胞による石灰化に対するCGRPの影響を調べるため、ラット急性単離細胞を石灰化誘導培地中で培養後、alizarin染色を行った。その結果、CGRPは石灰化に対し抑制効果を持つことが示唆された。1)の結果は歯髄炎時での三叉神経節細胞内Ca2+シグナルの解明につながる重要な成果である。2)3)の結果は2023年度から始めるCGRP以外の神経ペプチド等を介した三叉神経節細胞-象牙芽細胞間連絡の検討で研究成果を得るための基盤となる成果である。また、歯髄炎時のCGRPの象牙芽細胞への作用を明らかにした。
3: やや遅れている
CGRPを介した三叉神経節ニューロンと象牙芽細胞間連絡の論文アクセプトまで時間がかかってしまったため当初の計画よりやや遅れている。
2023年度は以下の項目について検討する。1)サブスタンスP、NKA、ATP、グルタミン酸など、CGRP以外の三叉神経節細胞-象牙芽細胞間連絡の伝達物質の可能性を検討する。象牙芽細胞におけるサブスタンスPとNKAの受容体の機能的発現を細胞内Ca2+濃度測定により明らかにする。三叉神経節細胞-象牙芽細胞共培養系において、ATP、グルタミン酸を含めた伝達物質の受容体拮抗薬存在下・非存在下で三叉神経節細胞に機械刺激を行い、周囲に存在する象牙芽細胞の細胞内cAMP・Ca2+濃度変化を記録する。2)1)で検討した物質の石灰化能に対する作用を検討する。石灰化誘導培地、石灰化誘導培地に1)で検討した物質または1)で検討した物質とそれら物質の受容体拮抗薬を添加した培地を準備する。それぞれの培地中で培養した後、alizarin red染色とvon Kossa染色を行い、石灰化レベルを比較する。3)1)で検討した物質による象牙芽細胞内cAMP誘発性Ca2+流入経路を細胞内Ca2+濃度測定により検討する。1)で検討した物質の受容体がGsタンパク質共役型受容体の場合、それら伝達物質の投与で生じる象牙芽細胞内Ca2+濃度増加に対する様々なCa2+透過性チャネルの拮抗薬の作用を検討する。
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