研究課題
歯周病に罹患するアルツハイマー病患者の脳には、歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisと好中球が局在しており、歯周病はアルツハイマー病の病態に関わることが示唆されている。P. gingivalisが産生するシステインプロテアーゼであるジンジパインは歯周病における主要な病原因子であるが、慢性歯周炎に罹患するアルツハイマー病患者の脳にはジンジパインが蓄積することが明らかにされている。一方、歯周病罹患者の歯周組織には集積する免疫細胞の約8割以上は好中球である。好中球は歯周病からの感染防御を担うが、歯周病原細菌の増殖に伴う過剰な好中球の活性化は、歯周組織の破壊に関わる。感染に際して、好中球は好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps; NETs)という細胞内容物を放出して病原体を破壊する。しかしながら、NETsはアルツハイマー病を増悪させることが示唆されている。つまり、慢性歯周炎に罹患すると歯周組織にジンジパインとNETsが蓄積し、両者はともにアルツハイマー病のリスクファクターとなる。本研究は歯周病の口腔に蓄積するジンジパインとNETsが血管を介して血液脳関門(blood-brain barrier; BBB)を突破し、脳機能に影響を及ぼす可能性について検討した。令和4年度は歯周病マウスモデルを用いて、P. gingivalisの口腔感染が脳機能に及ぼす影響について検討した。若齢マウス口腔に絹糸を結紮して歯周炎を惹起(ligature-induced periodontitis; LIP)し、P. gingivalisを口腔に感染させると、歯肉の炎症性サイトカイン発現が亢進し、歯槽骨の著明な破壊が生じた。同マウス脳では炎症性サイトカイン発現が亢進しており、脳にP. gingivalisが伝播したことが確認された。脳機能への影響を評価するために新規物体認識試験および強制水泳試験を実施した。興味深いことに、歯周炎を惹起したマウスでは認知機能が著明に低下した。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度の研究計画に基づき実験を実施した結果、次の研究成果が得られた。若齢マウスにLIPとP. gingivalis口腔感染の併用による歯周炎モデルを実施した結果、歯肉の炎症性サイトカイン(macrophage migration inhibitory factor, interleukin-1beta, IL-17a)発現亢進と歯槽骨破壊が認められた。同様に、同マウス脳のMIFおよびIL-1beta発現が著明に亢進し、脳にP. gingivalisが伝播することが明らかとなった。歯周炎が脳機能に及ぼす影響を解明するため行動試験を実施した結果、新規物体認識試験における新規物体の接触時間低下と、強制水泳試験における不動時間の延長が認められたことから、脳機能が障害されたことが示唆された。
次年度以降は次の研究計画の実施を予定している。歯周病と脳機能低下におけるNETsに関連性について、LIPとP. gingivalis口腔感染による歯周炎マウスモデルを実施し、歯周炎の惹起による歯肉のNETs放出をシトルリン化ヒストンH3発現を指標として測定する。令和4年度の研究実績からLIPモデルは好中球のNETs放出を促進させていることが推察されるため、LIPモデルにおける脳のNETs伝播について解析する。さらに、DNase IおよびGSK484投与によりマウス全身ならびに歯肉特異的にNETsを除去し、歯周病による脳機能低下におけるNETsの関与を明らかにする。一方、ジンジパインの関連性について、P. gingivalisジンジパイン変異株を用いて同様の実験を行う。
(理由)次年度使用額は、今年度の研究が効率的に推進したことにより発生した未使用額である。(使用計画)次年度使用額は、令和5年度請求額と合わせて次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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