研究課題/領域番号 |
22K09986
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
諸冨 孝彦 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (10347677)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 生体活性ガラス / オゾンナノバブル水 / バイオフィルム |
研究実績の概要 |
本研究は根尖孔外から根管内に細胞を誘導し、歯髄を再生させることを目標とする。そのためには、先ず始めに根管内外の環境を歯髄再生に適したものとする必要がある。それらの観点より、令和4年度は以下の研究を行った。 1)細胞の遊走と定着・分化に適した根管洗浄法の検討:現在、抜髄や感染根管治療後の根管内は、スメアー層の除去を目的としたEDTA製剤による洗浄ならびに壊死歯髄組織や微生物など有機物の除去を目的とした次亜塩素酸ナトリウム水溶液による洗浄が行われている。一方、これらは健全な根管内壁の象牙質を傷害する可能性も指摘されている。そのため、これらに変わる新規の根管内洗浄法として、歯周炎やインプラント周囲炎、骨髄炎での洗浄効果と安全性が報告されているプラス帯電性オゾンナノバブル水による洗浄法につき検討を行った。その結果、難治性根尖性歯周炎の原因菌のうち最も代表的なEnterococcus faecalisによるバイオフィルムを1分間の作用で殺菌可能な条件を発見し報告した。 2)根尖周囲歯周組織の状態を確認するための歯科用コーンビームCTによる診査・診断法:細胞を根尖孔外より歯髄内へと遊走させるには、根尖孔外の周囲歯周組織が健全な状態にあることが絶対条件であり、適切な診査に基づく高精度の診断が重要である。そのため、歯内治療における歯科用コーンビームCTによる診査・診断法についても検討し、その報告を行った。 3)生体活性ガラス配合根管用シーラーが根尖病変の治癒に及ぼす影響:上記研究2)で記載したとおり、既に根尖周囲歯周組織疾患に陥った歯については適切な根管治療を歯髄再生治療に先駆けて施術し、根尖周囲歯周組織が健全な状態へと回復していなければならない。そのため、生体活性ガラス配合セメントを応用した根管用シーラーによる根管充填後の根尖病変の治癒過程につき検索し、良好な治癒に有用であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度末に、それまで所属していた研究機関を退職し現所属機関へと異動した。そのため令和4年度の始めにこれまで遂行してきた研究活動を現所属機関でも同様に実施するための研究設備および環境の構築・整備を行ったが、予想以上に時間を要した。細胞培養のための設備が整い、また新型コロナウイルス感染症対策により規制されていた出張が許可されたことで細胞の移送が可能となり、細胞培養実験を再開することができたが、その時期が年度後半の時期となった。そのため、令和4年度に予定していた研究計画の実施が制限されることとなり、研究進捗状況が遅れる結果となっている。 一方で、当該年度には実験を計画していなかったものの本研究課題の目標達成に不可欠な検討事項である、新たな根管洗浄法の検討を前倒しで実施することができた。これは本研究課題の最終目標である臨床応用を実現させるためには必須の実験であり、当該年度の研究の遂行によって、低刺激性による安全性と高い殺菌効果を併せ持つプラス帯電性オゾンナノバブル水の根管内洗浄への応用につき、その可能性を見出し報告することができた。 さらにもう一点、本研究課題の最終目標達成に重要である根尖周囲歯周組織の画像検査による診査・診断法についても検討を行い、歯科用コーンビームCTによる診査・診断の有効性や特徴、配慮すべき点などにつき報告した。 以上より、研究進捗状況に若干の遅れと変更が生じたものの、研究遂行に大きな問題は生じていないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度以降、以下のとおり研究を遂行する。 1)プラス帯電性オゾンナノバブル水による細胞への影響とスメアー層除去効果について: プラス帯電性オゾンナノバブル水がEnterococcus faecalisによるバイオフィルムの殺菌に効果を発揮することが確認されたが、周囲組織への影響を確認する必要がある。そのため、歯周組織へと及ぼす影響につき詳細な検討を加える。始めは歯周組織を構成する各種の細胞を用いたin vitro実験より開始し、後にラット感染根管モデルを用いたin vivo研究に移行する。 さらにプラス帯電性オゾンナノバブル水によるスメアー層除去効果についてもin vitroおよびin vivo実験により効果を探り、象牙質を脱灰するEDTA使用せず、プラス帯電性オゾンナノバブル水のみで根管内洗浄が可能か検討する。 2)生体活性ガラス配合粉末添加根管用シーラーの根尖周囲歯周組織疾患の治癒に及ぼす影響:根尖周囲歯周組織より根管内へ細胞を誘導するには、根尖周囲歯周組織疾患の治癒が大前提である。ラット感染根管モデルを用いて、バイオセラミックス材料である生体活性ガラス配合セメントを応用した根管用シーラーを用いて根尖病変創傷治癒過程を検索し、前処置としての根管治療における有用性につき検討する。 3)細胞遊走および分化に最適なゲル状スキャホールド材の開発:歯髄再生における根尖孔外からの細胞遊走を促し、また歯髄細胞への分化誘導能を付与することが可能なゲル状スキャホールド材の開発を行う。臨床応用を目指すには、取り扱いや術式が簡便である必要がある。そのため、通常は乾燥状態で保存可能であり、使用時にはゲル化してシリンジにて根管内に注入可能な性状を有する基剤を開発する。さらに、予備実験において象牙芽細胞誘導能が確認されている生体活性ガラス等の機能性薬剤・材料を混入することが可能かについても、検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、前年度の所属研究機関の異動に伴い研究設備等の整備・構築が必要であった。また、前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症に関連し、域外への出張が困難な状態が続き、本研究で使用が不可欠な細胞株の前所属機関からの移送も不可能であったため、当該年度の最初に行う予定であった細胞培養法を用いたin vitro研究開始が年度末まで遅れた。加えて学部教育についても引き続き特別対策を要したため、研究エフォート率が当初の目論見より大幅に低下したことも影響した。 令和5年度からは学部教育もほぼ通常に戻り、また研究設備・備品等の環境面の整備も進んだため、予定している研究計画の遂行が可能であると思われる。
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