研究実績の概要 |
4年度は、まず接着性レジンに含まれる代表的な機能性モノマーである4-MET,Phenyl-Pおよび10-MDPと, 接着性のポリマーであるpolyalkenoic acid(PAA), アクリル酸とマレイン酸の共重合体であるsynthesized polyalkenoic acid(s-PA)について, 文献的な考察と構造的な解析を行った結果,歯質接着能は, 分子に含まれるカルボキシ基の位置と数が関係していることが示唆された. 次に、二つのカルボキシ基からなるシュウ酸の歯質接着能および脱灰特性について評価した.まずハイドロキシアパタイト(HAp)粉末に各種シュウ酸濃度溶液(0.001, 0.01, 0.05, 0.1, および0.5 M)を添加し,37 ℃で5分間静置後遠心分離した.次に,pH4.0の0.1 M乳酸溶液に24時間振盪し,遠心分離後上澄み液を採取してCaとPの溶出量をInductively coupled plasma optical emission spectrometry(ICP-OES)で測定した.また,各種シュウ酸濃度溶液で処理したHAp粉末を乾燥させ,X線回折(XRD), フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)で測定し解析した.その結果、シュウ酸濃度が0.01 M以上では, コントロールより Ca溶出量が有意に低い値を示し, シュウ酸に含まれる2個のカルボキシ基がHAp中のCaに結合することで歯質接着能を示し, Ca溶出を防いで脱灰抑制している可能性が示唆された. XRDとFTIRの結果より, シュウ酸とHApに含まれるCaからシュウ酸カルシウムが生成し, シュウ酸濃度の増加にしたがいシュウ酸カルシウムの生成量が増加していると考えられた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々のグループでは、これまで歯質接着の基礎研究に取り組んできた。2000年には世界に先駆けてグラスアイオノマーセメントの主成分であるポリカルボン酸の化学的な結合を実測した結果を報告(Yoshida, Y., et al. J Dent Res 79:709-714, 2000.)し、さらに2004年には、その分析技術を応用して、セルフエッチングシステムの主成分である歯質接着性モノマーの化学的な結合能を比較した(Yoshida, Y., Inoue, S. et al. J Dent Res 83: 454-458, 2004.)。この結果により、歯質接着性モノマーである10-MDPの有用性が明らかとなり、以降、多くの歯科材料メーカーが自社製品に10-MDPを使用することになった。しかし、接着歯学におけるこれら一連の化学的な分析結果は、歯質接着能に優れる機能性モノマーやポリマーを比較して性能の差や性能の順位を明らかにしただけであり、新しい接着機能性のモノマーやポリマーを設計するための知見にはつながっていない。 本研究は、その後の約20年近くの間、未解明であった分子構造と歯質接着能の関係を明らかにするために企画されたものである。歯質接着材料は、過去30年以上、新しい高機能接着性モノマーの開発に至っておらず、材料の組成を変えるのみの製品開発が行われているのが現状である。新しい接着機能性分子を設計するという難題に取り組み、そのきっかけとなる成果が得られたことは、今後の方向性を示す重要な知見を得られたものと考えている。 上記の背景から、令和4年度に得られた成果は本研究開発を進める上で重要なマイルストーンと考え、進捗状況を「概ね順調」とした。この成果は、材料と歯・骨との接着性・封鎖性向上に役立つものであり、接着歯学だけでなく、歯内療法用材料や歯周外科材料を設計する上でも有用である。
|