研究実績の概要 |
我が国の糖尿病患者における歯周病重症度が有意に高いことが示されており,1970~2003 年までの報告を調査したメタ解析においても同様な見解が得られている。そこで申請者らは,糖尿病の要因である最終糖化産物(Advanced Glycation Endproducts:AGEs)が歯肉上皮のバリアを破壊することで歯周病原菌が歯周組織に侵襲を加えることが,糖尿病患者における歯周病の重症化の要因の1つではないかと考え,本研究を企図した。具体的には,令和4年度は,ヒト歯肉上皮癌由来株化細胞Ca9-22を用い,細胞のバリア機能に関連するタイトジャンクションを構成するタンパク質の1つであるClaudinの遺伝子発現に及ぼすAGEsの影響を調べた。その前にAGEsのCa9-22細胞への指摘濃度を調べるために予備実験として,0, 50, 100 ug/ml AGEsを添加し細胞増殖を調べた。その結果,培養14日目まで,いずれのAGEs濃度に対して細胞の生存率の低下は認められなかった。そこでAGEsの濃度は0または100 ug/mlに設定し,次に、Claudin 1, 3, 4, 5の遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。AGEsは培養3日目でClaudin 1, 3, 4, 5それぞれの遺伝子発現を有意に減少させた。これらの結果は,AGEsが歯肉上皮細胞のバリア機能を低下させている可能性が示唆された。 歯周病の悪化とAGEsの関係を調べるために,歯周病原因菌であるグラム陰性菌の内毒素であるLPSでCa9-22細胞に炎症を惹起させたときのAGEsの影響を調べた。LPSとAGEsの共刺激は炎症性サイトカインIL-1,TNFαおよびPGE2合成酵素COX2の遺伝子発現を著しく上昇することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,令和4年度に計画しまだ実験の実施に至っていない⑤Cell culture insert とFITC-dextran を用いた透過実験を行い,歯肉上皮バリア破壊への影響を直接調べること,申請書の研究計画書に記載した「動物実験を用いた検討,細胞生物学的・分子生物学的研究の継続」について実施する予定である。細胞生物学的・分子生物学的研究の継続については,AGEsがCa9-22細胞のClaudin 1, 3, 4, 5のタンパク発現に及ぼす影響と、AGEs受容体RAGEのアンタゴニストFMS-ZM1を用いて、AGEsとClaudin発現における分子メカニズムの検索とLPS誘導性の炎症性サイトカイン発現に及ぼすAGEsの影響について調べる実験を行う予定である。
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