研究課題/領域番号 |
22K10036
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
浜田 賢一 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (00301317)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スマート材料 / 歯科用セメント / 直流 / 交流 / 接着強度 |
研究実績の概要 |
研究代表者はイオン液体(IL)を添加したレジン添加型グラスアイオノマーセメント(RMGIC)でチタンを接着した試料に通電することで、チタンとRMGICとの接着力を低下可能であることを見出した。強固な接着と容易な除去という矛盾した2つの性質を両立できる本試作セメントを歯科用スマートセメントと呼称し、実用化を目指した研究開発を進めている。 初期の実証実験では直流電流(19 V,30 s)を用いた特性評価を行ってきたが、経時的な電流値の低下が著しく、電荷量を与える効率が悪いと判断した。そこで、交流電流を用いた特性評価を行ったところ,2サイクル目以降の通電で電流値が増加しにくいことが判明し,電荷量を増やすには逆効果であった。そこで通電中に極性が反転する交流ではなく,極性を維持しつつ電圧を周期的に変動させる可変電圧条件で通電を行ったところ,電圧を0から+に変動させるよりも,+から+(例えば4 Vから8 V)に変動させる方が時間あたりの電荷量を増やせることがわかった。 以上の結果を踏まえ,令和5年度は可変電圧値を変化させて,電荷量と接着強度の低下量との相関を調べた。変動幅を同じ4 Vに固定した4-8 Vと8-12 Vでは8-12 Vの方が同じ時間(300 s)でも電荷量が大きく,接着強度低下量は大きかった。直流19 Vでのデータと比較すると,通電時間は10倍だが,電荷量は概ね同じで,強度低下量は変動電圧の方が大きかった。頭部への安全な負荷電圧の上限値は明確ではないが,電圧値が低いほうがより安全と考えられることから,所要時間は増えるものの,より安全に強度を低下できる手法となりうると考えられた。 一方,直流と交流の差異が生じる機序は現時点は解明できていないが,負荷電圧によって生じる界面電気化学反応が異なり,強度低下の程度も異なるのではないかとの仮説を立てている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
直流印加(19 V,30 s)と同じ時間でより多くの電荷量を与える通電条件は未だ明らかにできていないが,患者に過度の負担を掛けないと考えられる時間で同程度の電荷量を与えることができた。同時に,より低電圧(4-8 Vや8-12 V)で同程度以上の接着強度低下量を実現できたことから,より安全な接着強度低下が実現可能であることを示せた。一方,界面電気化学反応の直接観察が困難であることから,接着強度低下の機序の解明は十分には進んでおらず,今後,通電条件の最適化のために機序の解明を進める必要を認めた。 以上より,通電剥離型歯科用セメントの高性能化という目標に関して研究進捗状況は順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
変動電圧印加時の接着強度低下量のデータは,直流印加時のデータより偏差が大きく,安定した強度低下を実現するには障害となるリスクを認めた。その機序は明らかにできていないが,1つの仮説として,セメントの電気伝導性が低いことから,セメント厚さの僅かな変動によって電流がセメントを通過する際に必要な電圧が大きく変動する可能性を考えている。そこで,セメントと被着材であるチタンとの界面反応を直接観察できる試験片を作成して,印加電圧を変化させることで,生じている界面反応とその変化を解明する。その結果,接着強度に効果的な界面反応と所要電圧が明らかになれば,セメント厚さの偏差をカバーしてなお必要十分な電圧を印加することが可能となり,安定した強度低下を実現できると期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)コロナ禍の収束が見通せない中,国外で開催される国際会議の講演申込みを控えたため,2023年度は外国出張の機会がなかったため,次年度使用額が生じた。 (使用計画)2024年度に予定している国外開催の国際会議は1つだけであり,翌年度分として請求した研究費と合わせて,物品費としても使用する予定である。
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