研究課題/領域番号 |
22K10155
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
仲川 洋介 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (00714875)
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研究分担者 |
森 英一朗 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70803659)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | DNA修復 / ATM / DNA-PK / ATR / PIKKファミリー / 口腔がん |
研究実績の概要 |
放射線や薬剤などの影響でDNAに損傷が生じた際に、タンパク質リン酸化酵素ファミリーがDNA損傷センサーの役割を果たし細胞はその損傷を修復するとともに、細胞周期の一時停止や自発的な細胞死などの生体防御反応を引き起こすことが知られている。哺乳動物細胞において、特にDNA二重鎖切断の認識に関わるATM、DNA-PKと1本鎖DNAの認識に関わるATRを合わせたPIKKファミリーが重要であると考えられている。本研究では、このPIKKファミリーが、がん治療で用いられる既存の抗悪性腫瘍薬や放射線治療および温熱治療などの効果を増大させる分子標的となり得るのか否かの検討を目的としている。まず、阻害剤の濃度決定のため、濃度を振り分けたATR阻害剤の単剤処理を行い、細胞生存率をコロニー形成法にて算出した。阻害剤単独でIC50を超えない濃度として、本研究では各種阻害剤を3μMで用いることとした。口腔扁平上皮癌細胞株、SAS細胞(wt-p53)およびHSC3細胞(mt- p53)に対し、5-FU処理(10μM)、X線照射(2Gy)、温熱処理(44℃、10min)それぞれ処理時とATR、ATM、DNA-PKの阻害剤(3μM)を加え、細胞生存率をコロニー形成法にて算出した。SA細胞およびHSC3細胞ともに、5-FU処理ではATR阻害剤の併用により著明な増感効果を認めた。X線照射ではDNA-PK阻害剤との併用、温熱処理ではATR阻害剤との併用により高い増感効果を認めた。そこで今回、温熱処置とATR阻害剤の併用によるApoptosis誘導の増加をFlow cytometryを用いた細胞周期のヒストグラムおよびHoechst染色での形態学的変化から検討を行った。その結果、温熱処理単独に比べATR阻害剤併用ではApoptosis誘導を著明に増加させる結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多数の文献を参考にして研究計画を立案してきたが、その予想通りPIKKファミリーを中心とするDNA修復関連タンパク質の機能を阻害剤により抑制することで、既存の抗がん薬(5-FU)や放射線照射および温熱処理による殺細胞効果を著明に高める結果を得ている。このことにより、DNA修復関連タンパク質およびそれらが関連する経路が、既存のがん治療を効果的に行う上で有効な分子標的機構になると考えられる。 DNA修復関連タンパク質およびそれらが関連する経路の阻害剤は、それら単独でも臨床現場で治験が進められており、本研究を進めていくことにより将来の臨床応用へとつながることが期待できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
放射線照射とDNA修復酵素阻害剤に関する文献は多く発表され、5-FUとPIKKファミリー阻害剤との併用に関する増感効果の検討は我々の研究グループが既に進め学会や論文にて発表を行っている。 そこで、本研究では特に温熱処理とPIKKファミリー阻害剤、その中でもATR阻害剤との併用による増感効果について、分子生物学的にそのメカニズムを検討していきたいと考えている。現在、ウエスタンブロッティングにて温熱処理後のPIKKファミリー関連のタンパク質の発現変動の解析を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定していた学会や研究会が、COVID-19感染拡大にて中止や規模を縮小しオンライン開催になった。COVID-19感染拡大の影響や不安定な政界情勢から、海外から購入予定の試薬やプラスチック製の消耗品の納品が遅れる時期があった。 また、職場にてCOVID-19感染による休暇取得が相次ぎ、臨床現場での人手不足から研究に費やせる時間が減少したため研究計画の見直しを強いられた。
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