研究課題
現在、口唇口蓋裂(CL/P)など先天性顔面顎・顔面骨の欠損に対して、組織幹細胞を用いた骨再生医療研究が進められているが、欠損領域の特殊性や細胞単離時の異種性、あるいは培養による特性低下など高いハードルにより難渋している。これらは単離細胞の実態が不明確なため、進捗の阻害要因となっている、と考えた。近年、臍帯(UC)からもBM由来と機能特性や免疫学的に類似するMSCs(UC-MSCs)が存在することが報告されている。またUC-MSCsは、細胞の調達、保管、および移植において、他の幹細胞源よりも有用であるとされている。しかし、UC-MSCsの遺伝子プロファイルやMSCsを構成する細胞集団の機能的特性や分化指向性については未だに解明されていない。したがって、本年度は分担研究者の長村准教授よりCL/P患者由来細胞を供与されたことから、まず健常由来とCL/P由来UCの一細胞解析(scRNA-seq)による特性比較から、CL/P発症および病態メカニズムの解析を行った。具体的には、それぞれの細胞をscRNA-seqにより集団の特性変化を検索した。フィルタリング後のCL/P群、対照群で各4429および3653細胞を回収し、それぞれ35502および35171遺伝子を対象として解析を行い、遺伝子発現プロファイルを基に10細胞集団を特定した。さらに、両群を統合させることにより生じた違いを確認した。次に、Seuratを用いて各集団のDEG上位10から機能的背景を割り出し、また、特定した細胞集団の動態変化、trajectoryの描出による集団の分化プロセス、GO analysisで集団の機能的特性を解析した。その結果、CL/P群は2つの集団で遺伝子発現に有意な差を認めたことから、CL/P由来組織が健常組織と比較して、遺伝学的に特性が異なることを示唆した。次年度はカギとなる細胞の特定を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、BM-MSPCsに見られる特性と同等あるいは類する骨分化指向性を有するUC-MSCの細胞間シグナルを解明し、シグナルを活用した培養法を確立し、骨再生医療の新たな治療法としての有効性を立証することである。そのため、当初本年度は以下の研究を実施予定であった。1、ヒト臍帯組織に存在するniche構成間葉系細胞集団の特定。2、特定間葉系細胞集団における遺伝学的特性解析と分化指向シグナルの同定。1、組織工学の発展により再生医療発展を加速しているが、顎顔面領域などの複雑な骨の機能的再構築はいまだ骨組織工学における重要な課題である。一方で、CL/P発生における遺伝子発現調節メカニズムを解明することも急務となる。本年度、臍帯が胎児と母体に共通した特性を有する唯一の組織であることに着眼し、発生過程で生じる特性変化を捕捉可能であると考え申請者は、単離培養した臍帯細胞(CL/P由来および健常)をscRNA-seq解析を行い、フィルタリング後のCL/P群、対照群で各4429および3653細胞を回収し、それぞれ35502および35171遺伝子を対象として解析を行い、遺伝子発現プロファイルを基に10細胞集団を特定した。2、1項にて特定した10細胞集団の遺伝子発現プロファイルからSeuratを用いたnormalization, dimensionality reduction, clusteringを行うことで、特定した両細胞集団の動態変化、trajectory(pseudotime analysis)の描出による集団の分化プロセス、GO analysisなどのgene-based analysisで集団の機能的特性を明らかにした。この両群のscRNA-seqデータを基に統合解析をおこなったところ、ある集団で明らかな発現差を認めた。現在、細胞種の特定を進めている。
次年度研究計画として、「シグナル分子を活用した高機能化MSPC増殖培養法の確立」であるが、現在進めている細胞種の特定と、併せてCL/P発症に関与する因子の特定作業を進めている。先行研究で報告れたCL/Pのリスク因子、およびGWAS(genome wide associate study)研究による大規模スクリーニングにより特定された臍帯血SNPに含まれるCL/Pリスク因子を基に、本研究で検出するCL/P関連のGO termに含まれる因子から、機能的に確からしい因子の特定を行う。その結果として、妊娠期の末梢血での診断が可能かどうかを最終年度に立証する。また、健常由来解析データから骨分化に寄与する細胞集団を特定し、in vitroにて検証作業を進めていく。
本年度、当初は健常臍帯組織由来細胞のみを用いて一細胞解析を実施する予定であったが、分担研究者の長村研究室よりCL/P由来臍帯細胞の供与があったため、CL/P発症原因メカニズム解析が群間比較により可能となった。したがって、一細胞解析を2検体分実施が可能となったが解析費用が当初予算より増加したことにより、当該年度余剰金を次年度に後ろ倒しにて使用することとなった。次年度に大規模解析を実施することから、資金負担は大幅に増加する見込みとなる。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 14件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
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