研究課題
実験動物の摂取量を適度に制限するカロリー制限(CR)は、生理的・病的老化現象を遅延させ、平均および最大寿命を延長させる実験的介入法である。また、授乳期の母獣へのCRを行ったところ、その仔は短寿命を示した(未発表データ)。同様のCRにおいても、応用する時期において寿命への影響が異なることから、これらのモデル動物を比較検討することにより、老化制御機構の解明の糸口に繋がることが示唆される。ヒトの健康や疾患についての最近では腸内環境が注目されており、代謝性疾患をはじめ、パーキンソン病やアルツハイマー病、自閉スペクトラム症などの認知障害や発達障害との関連が示唆されている。腸内細菌叢はヒトの健康状態や病的状態により、その種類や割合が変化しており、その代謝産物もまた、ヒトの健康や疾患発症に影響を及ぶす。近年では、腸内細菌叢とその代謝産物がパラクライン的に腸の神経叢を介して中枢神経や他の臓器と相関関係にあることが報告されている。このことから、寿命・寿命制制御機構の解明への新たなの切り口として、腸内細菌叢やその代謝産物を網羅的に解析することにより、新たな知見を見出すことが期待される。乳歯はその歯髄組織から幹細胞の特徴を有するヒト乳歯幹細胞(SHED)を単離することができ、in vitroで病態の再現と解析ができる有用な細胞源である。そこで本研究では、新たに短寿命モデルと長寿命モデルの腸内細菌叢とその代謝産物に着目して、それらを網羅的に解析することにより、老化制御や認知障害、発達障害に関与する因子の同定と、そのメカニズムの解明を目的とする。本研究の成果は寿命・老化制御機構の解明や老化に伴う認知障害、また発達障害の解明に繋げることができ、将来的に医療費の削減やQOLの向上、多様性を共有する社会構築に貢献できると期待される。
3: やや遅れている
これまでの研究課題での共同研究で、他の施設での飼育されているマウスのCR群と対照群の6か月齢における糞を採取後、冷凍保存した。その糞より腸内細菌のDNAを抽出中し、腸内細菌叢の解析と、CR群と対照群の比較検討を実施中である。また外来受診中の患児からの脱落乳歯からのSHEDの単離を継続している。自閉スペクトラム症の患児や健常児から単離したSHEDを現在は凍結保存しており、研究に使用できる状態にある。また、先行研究において、SHEDの神経様細胞への分化のプロトコールは確立してることから、腸内細菌叢の解析後に、SHEDを用いたin vitroの研究の準備は整っている。
今後は現在進行中のCR群と対照群の腸内細菌叢の解析を継続していく。また、老齢マウスの糞の採取を計画中で、共同研究を行っている施設でのマウスの飼育を継続して、24か月齢で糞を採取する予定である。採取した老齢マスからの糞についても、腸内細菌のDNAを抽出して、CR群と対照群の腸内細菌叢の解析を行う予定である。また、当施設の動物飼育施設の利用再開後、授乳中のCR群を作成して、生後6か月と24か月において対照群とともに糞を採取して凍結保存する。採取した糞より腸内細菌のDNAを抽出し、腸内細菌叢の解析を行う。上記解析を進めることにより、寿命や老化に関連する代謝産物を検出して、SHEDから分化誘導した神経様細胞における検出した代謝産物の作用機序などの解析を進めていく予定である。
当施設の動物飼育施設での感染発生後の施設使用の再開が未定であることから、実験動物の飼育と実験コロニーの作成ができない状況である。このことから、実験動物を用いた研究に関連する消耗品の購入等が無かったことから、次年度使用額が生じた。
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