研究課題
ミュータンスレンサ球菌は齲蝕の主要な病原性細菌であるとともに感染性心内膜炎の起炎菌である。特に、菌体表層にコラーゲン結合タンパクを発現しているCBP陽性株は感染性心内膜炎の病原性に関与するだけでなく、脳内微小出血や IgA 腎症などの全身疾患を有する患者の口腔検体から高頻度で検出されることが複数の臨床疫学研究から明らかになっている。ミュータンスレンサ球菌は通常、養育者と子の間で伝播する傾向が強いとされているが、全身への病原性が高いとされるCBP陽性株についてはこれまでに検討されていなかった。これまでに本研究において、母親は小児へのCBP陽性株の主要な感染源であるとともに、乳幼児期の授乳習慣がCBP陽性株の口腔内の定着に影響を及ぼす因子である可能性を示すことができた。その後、小児におけるCBP陽性株の定着環境のさらなる解明のため、小児の齲蝕発生と母乳育児との関連についての疫学調査、小児における口腔内細菌数の分析およびミュータンスレンサ球菌に対する母乳中含有成分の効果の検証を進めてきた。大阪府の中核市における疫学調査では、1歳6か月時での母乳摂取習慣が1歳6か月児および3歳6か月児いずれにおいても齲蝕発生のリスクファクターであることが明らかになった。口腔内細菌数の分析では、68名の小児を対象に舌表面に付着する細菌数の分析を行ったところ、舌表面に付着する細菌数は人工乳育児期間と正の相関関係を示した。母乳中含有成分の効果の分析では、リゾチームは母乳中の濃度においてミュータンスレンサ球菌に対する抗菌効果を示したのに対し、ラクトフェリンは抗菌効果を示さなかった。今後は、リゾチームおよびラクトフェリンがミュータンスレンサ球菌の増殖、バイオフィルム形成、およびコラーゲン結合能に対する抑制効果を示すかどうかについて分析を進める。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的の1つは、全身疾患との関連性が高いう蝕病原性細菌であるCBP陽性株の乳幼児期における定着環境の解明と定着予防法を検討することであった。現在までに、乳幼児期の授乳習慣がCBP陽性株の口腔内の定着に影響を及ぼす因子である可能性を示すことができ、国際学術誌への掲載に至っている。その後、本研究の背景の根底にある乳幼児期の齲蝕発生と授乳習慣との関連についても、大阪府の中核市における乳幼児健康診査のデータを分析し、国際学術誌への掲載に至っている。その上で、小児におけるミュータンスレンサ球菌の定着環境のさらなる解明のため、小児における舌表面に付着する細菌数の分析を行い、授乳習慣との関連性を示唆するデータを得るとともに母乳中含有成分のミュータンスレンサ球菌に対する抗菌効果の分析に着手できていることから、研究はおおむね順調に進展している。
小児の齲蝕の実態に関する疫学調査では、これまでに得られた縦断的分析データに関して国際学術誌への投稿を予定している。また、生活習慣や口腔内の特徴だけでなく、出生状態などの身体的特徴についても考慮した分析を行う予定である。口腔内細菌数の分析では、現状の臨床研究を継続して対象児数を増やし、小児における舌表面に付着する細菌数が授乳習慣と関連を示すかどうかを分析する。また、舌表面に付着する細菌数が多い小児の生活習慣の特徴や身体的特徴を明らかにする。ミュータンスレンサ球菌に対する母乳中含有成分の効果の分析では、リゾチームおよびラクトフェリンがミュータンスレンサ球菌の増殖、バイオフィルム形成、およびコラーゲン結合能に対する抑制効果を示すかどうかについて分析を進める。さらに、リゾチームおよびラクトフェリン存在下でのミュータンスレンサ球菌の構造的特徴を明らかにし、口腔内に存在するミュータンスレンサ球菌に対して母乳成分が与える影響について明らかにしたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
BMC Oral Health
巻: 23 ページ: 671
10.1186/s12903-023-03394-0