研究課題/領域番号 |
22K10368
|
研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
池辺 寧 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (00290437)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ハイデガー / 科学 / 技術 / 機械技術 |
研究実績の概要 |
ハイデガーは近代科学や機械技術を、近代という時代を特徴づける本質的な現象と捉えている。そのことを踏まえ、令和4年度はまず、ハイデガーの科学論の研究に取り組んだ。彼が近代科学について主題的に論じているのは論文「世界像の時代」であるが、本研究では、同論文のもととなった講演原稿や、講演後に書かれた草稿などを踏まえないと、ハイデガーの科学論を適切に理解できないことを取り上げた。さらに、以下の研究を行った。近代科学においては、存在者との本来的な関わりがなくても、研究は成り立つ。また、科学は自らが抱える諸課題に対処するためには哲学を必要とするが、今日、研究の一環としてあらかじめ哲学を組み込んでいる科学が生まれている。そうなると、哲学は科学的研究の一部を構成するものでしかない。これらの点に、近代科学の脅威を見出すことができる。 次に、ハイデガーの技術論を理解する一助として、彼の機械技術論に取り組んだ。ハイデガーの機械技術論に焦点を当てた先行研究はあまりない。だが、彼が考えている技術とはまずは、動力機械装置の設備としての技術である。本研究ではその一例として、Getriebeというドイツ語を取り上げた。このドイツ語は一般に「伝動装置」と訳されるが、ハイデガーはこの語でもって機械を特徴づける。その一方で、彼は総かり立て体制の本質性格として、Getriebe(駆動の総体)を用いている。総かり立て体制とは、技術の本質を言い表すハイデガーの術語である。つまり、ハイデガーは機械を特徴づけるGetriebeでもって、同時に技術の本質を性格づけているのである。さらに本研究では次のように、ハイデガーが必要や需要という観点から技術や機械技術を捉えていることを論じた。機械技術の発達は新たな必要や需要を喚起する。あらゆる活動の根拠には、必要や需要の充足がある。必要や需要は主観性の支配の根本現象である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である令和4年度はハイデガーの科学論、および機械技術論に関する研究に取り組んだ。これらの研究は本研究課題を進めるにあたって基礎となる研究である。科学論に関する研究は、4年度中に論文として公表するには至らなかったが、研究そのものは順調に進展している。機械技術論については、「ハイデガーの機械技術論」と題する論文を公表することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
まずハイデガーの科学論に関する研究を継続し、令和5年度中に論文として公表することをめざす。次にハイデガーが論じた時間性をナラティブ(物語)の視点から読解する研究に取り組む。今日、患者のナラティブに基づいた医療への関心が高まっているが、本研究ではハイデガーを手がかりにしてナラティブの研究に取り組む。
|
次年度使用額が生じた理由 |
対面での開催が予定されていたある研究会がコロナ感染拡大によって中止となった。それに伴い、旅費の支出も減少し、3万数千円の次年度使用額が生じた。令和5年度はさまざまな学会、研究会において対面での開催が予定されている。令和5年度の助成金は主に関係図書の購入(物品費)と旅費に充当する。購入を予定している関係図書は、「ハイデガー哲学関係図書」『現象学関係図書」「医学哲学関係図書」その他である。
|