研究課題/領域番号 |
22K10371
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
永沢 善三 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 教授 (80706820)
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研究分担者 |
船島 由美子 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 講師 (70752814)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | MRSA / MLST / POT / PFGE / IR Biotyper / Coagulase typing / Whole genome analysis |
研究実績の概要 |
薬剤耐性菌の出現と蔓延は世界的な問題であり、AMRの報告では、2050年には世界での悪性新生物による死亡数を超えて薬剤耐性菌による死亡数が上回ることが予測されている。薬剤耐性菌の蔓延を防止するには、散発的な感染か同一菌株による感染かを鑑別することが重要と言える。現在、細菌を対象とした疫学解析には、遺伝子学的手法であるMLST解析法、PFGE解析法、POT解析法が実施され、その解析結果を基準に院内感染の有無が評価されている。しかし、菌株によっては同一菌株であっても疫学解析手法の違いにより成績の乖離が認める。現在、疫学解析手法の信憑性を解析した世界的な検証データは認められない。本課題研究を実践するためには、多くの疫学解析が実施されている黄色ブドウ球菌を対象に世界的に実施されている1)MLST解析法、2)PPFGE解析法、および日本で頻用されている3)POT解析法、更に斬新的な4)MALDI-TOF MS解析法、5)赤外吸収分析 (IR Biotyper) 解析法を実施し、各疫学解析手法で得られた菌株間の相同性を比較検証し、各疫学解析手法での信憑性を評価する。この疫学解析手法の信憑性解析が確立すれば、多くの医療機関において院内感染の蔓延を適切かつ未然に防止することに繋がる。 本研究では、国際医療福祉大学および自治医科大学医学部感染・免疫学講座細菌学部門の協力を得ながら黄色ブドウ球菌150菌株を収集し、菌株の再同定は質量分析計のMALDI BiotyperにてScore Valueが2.000以上を示した100菌株を対象に、CLSI法に準じた微量液体希釈法(ドライプレート栄研)を実施し、オキサシリンあるいはセフォキシチンのMIC値よりMSSAとMRSAの表現系による分類を行った。なお、薬剤感受性試験を実施した20薬剤について感性・耐性パターンによる分類も同時に実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
菌株収集した黄色ブドウ球菌150菌株は質量分析計のMALDI Biotyperで再同定した結果、Score Valueが2.000以上を示した菌株は100菌株であり、本研究課題の各種疫学解析用の対象菌株とした。 薬剤感受性試験ではPCG、ABPC、IPM/CS、S/A、CEZ、MINO、EM、LVFX、DAP、VCM、TEIC、GM500、RFP、CFPM、CLDM、GM、LZD、ABK、ST、FOMの20薬剤に対するMICを測定し、感受性パターンによる疫学解析を実施した。 また、日本では黄色ブドウ球菌の疫学分類に古くから使用されたコアグラーゼ分類を実施した。コアグラーゼ分類には関東化学シカジーニアスコアグラーゼ測定セット(関東化学)を用いて遺伝子解析を実施した。コアグラーゼ分類にはⅠ~Ⅷ型の遺伝子領域を特異的に増幅するプライマーを用いて、マルチプレックスPCRで遺伝子増幅を行い、その増幅産物の電気泳動で出現した部位により型別分類を実施した。その結果、MRSA 111株のコアグラーゼ型の遺伝子型を測定した結果、Ⅰ型は7株、Ⅱ型は12株、Ⅲ型は16株、Ⅳ型は1株、Ⅴ型は14株、Ⅵ型は16株、Ⅶ型は32株、Ⅷ型は2株であった。 日本で頻用されているPOT解析には、シカジーニアス分子疫学解析POTキット(黄色ブドウ球菌用:関東化学)のマルチプレックスPCRを用いて複数の特定遺伝子を同時に増幅し、アガロース電気泳動で検出された増幅バンドパターンを解析し、菌体間の相同性を比較した。その結果、POT1・POT2・POT3で分類した場合には約50パターン程度と詳細に分類された。なお、菌株によっては増幅バンドが不明瞭な菌株も多数認められるため再検討を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はMLST解析およびMALDI-TOF MS解析を中心に検討を実施する。 MLSTは、Enright et al の方法に準じて実施し、QIAampDNAMiniKit(QIAGEN N.V. Hulsterweg、Netherlands)を使用して染色体DNAを精製し、ハウスキーピング遺伝子の7つのPCRフラグメント(arcC、 aroE 、glpF、 gmk、 pta、 pti and yqiL)は、KOD One(東洋紡)およびサーマルサイクラーT100(Bio-Rad Richmond)で増幅する。PCR産物の精製後、BigDye Terminator v3.1CycleSequencingKitおよび3730xlDNAAnalyzer(Thermo Fisher Scientific K.K.)を使用してサンガーシーケンスを実行し、対立遺伝子プロファイルと配列タイプ(ST)は、Pub MLSTデータベース(http://pubmlst.org/saureus)を使用し決定を行う。また、同時にmec typingおよびccr typing、SCC mec typingなども検討を予定している。 MALDI-TOF MSは、flexAnalysis softwareとMALDI Biotyper 3.02 (Bruker) を使用し、ピークリストの取得や特異ピークの抽出にはClinPro Tools ver.2.2を用いて、クラスター分析を実施し、菌株間の相同性を鑑別する予定である。 2024年度には、手のひらにのる遺伝子解読装置である次世代シーケンサーのMinION(Nanopore)を使用し、MLSTおよびPOTにて乖離した菌株の相同性を全ゲノム解析にて検証を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に次世代シーケンサーのMinION(Nanopore)を使用し、MLSTおよびPOTにて乖離した菌株(検討用に数株)の相同性を全ゲノム解析する予定であったが、DNAの精製およびゲノムデータの収集に問題が発生したため、試薬購入を一時停止した。そのため、2023年度に予算を繰り越した。 また、学会発表および参加などに関しては新型コロナウイルスの感染継続により予定していた対面参加を中止した。
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