研究課題/領域番号 |
22K10489
|
研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
渡邉 元樹 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40723581)
|
研究分担者 |
亀田 倫史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 上級主任研究員 (40415774)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | がん予防 / セサミノール / ペリリルアルコール / ケモプロテオミクス / 分子動力学シミュレーション |
研究実績の概要 |
初年度はケモプロテオミクスの手法により、がん予防物質として期待されるゴマ油含有成分sesaminolとシソやハーブの含有成分perillyl alcohol (POH)に共通に結合する標的タンパク質として、ribosomal protein S5 (RPS5)を同定し、①siRNAを用いたRPS5の発現枯渇実験や、②公共データベースを用いたRPS5の発現量とがん患者の予後の相関性解析、③スーパーコンピューターを用いた、RPS5とsesaminolやPOHとのドッキングシミュレーションといった多様な角度から、RPS5の機能解析を行い、RPS5が腫瘍抑制のための標的分子となりうる新規の知見を示した。引き続いて、本年度は、sesaminol及びPOHの、もう一つの共通の結合タンパク質として同定したadenine nucleotide translocase 2 (ANT2)にフォーカスして解析を進めた。ANT2はミトコンドリア内膜タンパク質として知られる一方、既に乳がん等のがんにおいて高発現しているがん関連タンパク質としても報告されている。そこで今回、我々はエストロゲンレセプター(ERα)陽性ヒト乳がん細胞株を用いて、ANT2の機能解析を行った。siRNAによるANT2の発現枯渇により、ERαの下方制御とともに、細胞増殖抑制効果を認めた。さらにANT2リガンドであるPOHも同様に、濃度及び時間依存性にERαを下方制御するとともに細胞増殖を抑制した。さらに2種のホルモン療法耐性乳がん細胞株(タモキシフェン耐性株及びフルベストラント耐性株)に対しても、POHは著明な増殖抑制効果を示した。以上の結果は、POH含む、ANT2リガンドによるANT2標的治療が、ERα陽性乳がんの薬剤耐性を解除する臨床応用性を期待させる新規発見である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗腫瘍性天然化合物sesaminolとPOHの共通の標的タンパク質として初年度に同定したRPS5に加え、今年度はもうひとつの両化合物共通の標的タンパク質のANT2の機能解析に注力し、ANT2を標的にすることで、ホルモン療法耐性乳がんの耐性克服につながる可能性を示した。RPS5とともに、ANT2という、おそらく既存のゲノミクス的アプローチでは得られないであろう新たながんの標的分子の同定に成功したことで、本研究のオリジナルコンセプトである「ケモプロテオミクスによるがん予防創薬基盤」が確立されつつあり、当初の計画通り、プロジェクトは順調に進捗しているものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は当初の計画通り、①In silico化合物スクリーニング:sesaminol及びPOHと、それらの共通の結合タンパク質として同定したRPS5及びANT2との結合様式と類似の様式を取りうる他の化合物を、天然化合物や既存医薬品の公共データベースの中から、スーパーコンピューターを用いて探索する。②In vitro実験:①におけるヒット化合物が実際に抗腫瘍効果を発揮するかどうかについて、また実際にRPS5やANT2に直接結合するかどうかについて、細胞分子生物学的実験及びケモプロテオミクスの手法により検証する。③In vivo実験:ヒット化合物のがん予防効果について、APCmin変異大腸がんモデルマウスを用いて、ポリープ形成能について概念検証する。以上の通り、In silico/In vitro/In vivoの実験系が三位一体となった異分野融合型の独創的なアプローチにより、将来的に真に実行可能ながん予防の先制医療実現のためのがん予防創薬基盤の構築を目指す。
|