研究課題/領域番号 |
22K10493
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
熊谷 剛 北里大学, 薬学部, 講師 (30365184)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ヘビ毒 / フェロトーシス / 自然毒 / 酸化脂質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヘビ毒成分であるLAAOが酸化脂質依存的細胞死を誘導することを実証し、その発現機構を明らかにすること、及び毒ヘビ咬傷におけるLAAOの寄与を明らかにしLAAO阻害剤の治療薬への可能性を検討することである。本年度は以下の2点について培養細胞を用いた解析を行い、LAAOが酸化脂質依存的細胞死を誘導することの検証および阻害活性を持つ化合物のスクリーニングを行った。 (1) LAAOによる酸化脂質依存的細胞死誘導の検討 実験にはヒト横紋筋肉腫由来RD細胞株を用い、LAAOは市販で入手可能なニシダイヤガラガラヘビ(Crotalus atrox)由来のLAAOを用いた。細胞障害性の評価はMTTアッセイおよびLDHアッセイにより評価した。その結果、LAAOの濃度依存的な細胞死誘導が確認された。この細胞死は過酸化水素の消去酵素であるカタラーゼの添加により抑制された。そこで各種細胞死経路の阻害剤を用いてLAAOによる細胞死がどのタイプの細胞死かを検討した。その結果、アポトーシス経路の阻害剤z-VAD、ネクロトーシス経路の阻害剤ネクロスタチン-1では顕著な抑制効果は認められなかった。一方、フェロトーシスの抑制剤であるフェロスタチン-1および鉄キレーターであるデフェロキサミン 、フェナントロリンで有意に抑制された。また細胞内の酸化脂質の生成を、酸化脂質特異的蛍光プローブであるLiperfluoを用いて観察した結果、LAAO処理により細胞内の酸化脂質量が増加した。この増加はフェロスタチン-1、DFO処理により抑制された。以上の結果より、ヘビ毒成分であるLAAOによる細胞死は、酸化脂質依存的なフェロトーシスであることが示された。 (2) LAAOによる細胞死を抑制する阻害剤の探索 一方、並行してLAAOによる細胞死を抑制する阻害剤の探索を、本学で保管している化合物ライブラリーを用いて行っている。現在、利用できる110化合物で評価を行い、LAAOによる細胞死を約6割まで抑制する化合物を1種類見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、3カ年計画で大きく3つの解析を進める予定である。そのうちの2つについては、現在実験を進めており、概ね順調に進んでいる。今年度より詳細な解析を進め、LAAOによる細胞死誘導機構の解明を年度内に終了する予定である。一方、動物を用いたLAAOの個体における障害性および見出した阻害剤のin vivoにおける阻害活性と障害性軽減の評価は今年度後半から3年目にかけて進める予定である。そのための阻害剤のスクリーニングについてもより多くの化合物をスクリーニングすることで準備を進める。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果よりLAAOによる細胞死はフェロトーシスであることが明らかとなった。このことから、現在、これまでにフェロトーシスに関わることが報告されている経路が関与しているのかを解析を行っている。また、予備実験で細胞内での鉄イオンの遊離が関与していることが示されており、細胞内分子の分解による鉄の遊離(フェリチノファジー)が機能していることが示唆されている。今後、この経路の関与について、生化学的・分子生物学的なアプローチで解析を行い、今年度中での解明を目指す。 また、化合物ライブラリーを用いたLAAO阻害剤のスクリーニングについても、さらに多くの化合物を用いて、より効果のある化合物の探索を続ける。またLAAO単独のみならず、ヘビ毒そのものに対して細胞障害性を抑制する化合物のスクリーニングも行い、in vivo解析に用いる候補化合物数を増やすことで、将来的に創薬につながる候補化合物を多く得ることがで着るよう計画を進める。
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