研究課題/領域番号 |
22K10520
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
阿部 温子 (杉本温子) 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (70780774)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | EBV / ウイルス発がん / IMPDH2 |
研究実績の概要 |
エプスタイン・バーウイルス (EBV) は、ガンマヘルペスウイルス亜科に属するヒトヘルペスウイルスである。EBVは上咽頭癌、胃癌、バーキットリンパ腫などの様々な種類の悪性腫瘍との関連が指摘されている。しかしながら、EBV由来発がんの決定的な原因因子は未だわかっていない。 初代培養Bリンパ球へのEBV初感染から潜伏感染成立までの10日ほどの期間があり (前潜伏感染期)、この期間にEBV感染細胞は潜伏感染を成立させるために、宿主細胞を過剰増殖状態にし、不死化させるなど、いわばがん細胞を模倣した環境に整えている。申請者はこれまでの研究において、EBVによる細胞の潜伏感染成立に必須である宿主因子としてイノシン酸-5’-リン酸デヒドロゲナーゼ2 (IMPDH2) を同定した。IMPDH2は初代B細胞にEBVが感染した直後に発現が上昇しており、前潜伏感染期に必要な因子である (Sugimoto et al., 2023)。IMPDH2に特異的な阻害剤としてミコフェノール酸 (MPA)が挙げられる。EBV初感染細胞にMPAを添加したところ、感染細胞の不死化を完全に阻害した。EBV感染細胞では、潜伏感染成立後もIMPDH2の発現が高レベルを保っていることがわかっており、潜伏感染の維持などに重要な働きをしていることが考えられる。本年度の研究により、EBV潜伏感染細胞株にMPAを添加したところ、細胞分裂が抑制されていることがわかった。このことから、EBVの潜伏感染の維持にはIMPDH2が重要であることが考えられる。また、MPAを添加したEBV感染細胞株では一部溶解感染に回っている現象も観察された。また、溶解感染においてMPAを添加したところ、溶解感染の後期遺伝子の発現が抑制されていることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の研究計画の、溶解感染/潜伏感染におけるIMPDH2の制御機構を中心的に解析した。当初は溶解感染でIMPDH2は抑制されていると考えていたが、IMPDH2が溶解感染遺伝子のうち後期遺伝子の発現に関わっていることが観察された。この現象についても今後解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、申請者はEBVが感染している細胞が溶解感染に回ると、核内にウイルスの複製装置が形成されることを明らかにしてきた(Sugimoto et.al., 2011、Sugimoto et.al., 2013、Sugimoto et.al., 2019)。これまでの研究計画では、ウイルス複製装置が形成される際には核小体は縮小しているか消失していると考えていたが、電子顕微鏡観察および蛍光免疫染色による観察により、核小体が形態変化を起こしていることがわかった。また当初は溶解感染誘導の際に、IMPDH2を負に制御する機構があると考えていたが、本年度の実験結果よりIMPDH2が溶解感染にも貢献していることが考えられた。そこで次年度の研究計画では、薬剤によって溶解感染へのスイッチが可能であるEBV感染Bリンパ球由来細胞株を用いて、溶解感染誘導後、経時的に回収し、IMPDH2のの溶解感染における機能について解析を行う。また、本年度の研究結果より、IMPDH2は潜伏感染における継続的な細胞分裂に必須であることがわかったが、細胞内のIMPDH2を高レベルに保つ機構はまだ解明されていない。そこで、RNA-seqおよびIP-MSなどの網羅的解析手法を用いて、解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においてRNA-seqおよびIP-MS等の網羅的解析を行う予定であったが、当初の予想とは異なったデータが出たため、そちらの解析を優先した。これらの網羅的解析は本年度のデータを踏まえ、次年度に行う予定である。
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