研究課題/領域番号 |
22K10675
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
原口 道子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 社会健康医学研究センター, 主席研究員 (00517138)
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研究分担者 |
笠原 康代 東京医療保健大学, 医療保健学部, 講師 (00610958)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 医療安全 / 在宅療養支援 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、「SafetyⅡ概念を基盤とした在宅療養リスク管理モデルの構築」である。当該年度(初年度)は、病院と在宅のインシデント事例の比較を行うことを目的に、【調査A】病院と在宅におけるインシデント事例の収集・発生要因の分析を実施した。 事例は、「医療処置管理」に関する事象として「人工呼吸管理」、「療養上の世話」として「移動支援(転倒・転落)」、「医療的ケア」として「経管栄養」の事象について、(a)病院、(b)在宅の事例を収集した。(a)病院事例(厚労省医療事故情報収集等事業2021年度公開事例)は、人工呼吸管理:144件、転倒転落:51件、経管栄養:41件を分析対象とした。(b)在宅事例は、全国の訪問看護事業所1940件を対象にリスク管理に関する質問紙調査を実施し、265件より回答を得た。在宅インシデント事例は、人工呼吸管理:37件、転倒転落:98件、経管栄養:57件の提供を受けた。 (a)(b)の各事例は、ヒューマンファクター工学説明モデルPmSHELLモデルを用いてリスク要因分析を行い、(a) (b)の要因を比較した。在宅事例の特徴として、療養者の希望を尊重した方法や長期療養に伴う状態変化などの療養者要因があった。日中独居や施設入居による見守り環境の限界、同居家族の生活様式・生活環境などの環境要因、物品の交換日や定期的な観察・確認などスケジュールや支援体制に関わる管理要因、実施者・発見者が家族や介護職員などの非医療職であったり、家族の健康問題などの療養以外の人的要因も在宅事例の特徴として挙げられた。 訪問看護事業所のリスク管理の実態として、インシデント報告数は平均14.1件/年、インシデント遭遇経験の割合は人工呼吸管理15.5%、経管栄養25.2%、転倒・転落46.7%であった。回答者の72.5%が在宅のリスク管理に難しさを感じていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「医療機関と訪問看護事業所の看護連携による在宅療養支援リスク管理指標」を開発する。本研究は、1)病院と在宅におけるインシデント事例の収集・要因分析を行い、2)発生要因を比較して在宅の発生要因の特徴を明らかにし、3)在宅の特徴(リスク想定範囲の拡大など)を踏まえた在宅療養リスク管理モデルとして構造化する。さらに、モデルの実装のために、4)在宅療養リスク管理モデルにおけるSafetyⅡ概念に基づく成功例を収集し、5)実装に必要な訪問看護師のレジリエンス・エンジニアリング能力を明らかにする。以上により、法整備が確立していない在宅における医療安全体制の構築に寄与する。 当該年度は、初年度として、1)に資する事例を質問紙調査によって収集した。収集した事例のリスク要因分析および在宅における発生要因の比較検討を行った。次年度は、本年度の結果を踏まえて、病院地域連携部門の看護師と訪問看護師など先駆的実践者のフォーカスグループにより、さらに在宅リスク管理の特徴を体系的に整理し、リスク管理の構造を検討する。初年度は、次年度の検討に資する分析結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性は、引き続き、在宅におけるリスク管理の特徴についてエビデンスに基づき言語化、明確化するとともに、3年度目までには「在宅療養リスク管理モデル」として概念化・構造化する。モデル開発にあたっては、本テーマに精通した実践者、学識経験者等の討議により精練する。最終年度(2025年度)には、モデルの実装に向けて訪問看護師の在宅療養支援リスク管理の実践能力をレジリエンスエンジニアリング能力として実態調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、質問紙調査の回収数に応じてデータ入力作業等の人件費および作業にかかる物品費の購入を計画していた。しかし、質問紙調査の回収数は従来からの研究協力者との共同作業により実施可能な範囲であったこと、既存の物品での対応が可能であったことから、未使用額が生じた。 次年度には、収集したインシデント事例の分析結果をさらにリスク管理モデルとして推敲するための面接調査およびフォーカスグループを実施する。当該年度の調査結果から、当初より詳細な在宅リスク管理の視点が明らかになり、複数回のヒアリングを要することが想定される。併せて、次年度の調査では、これらの検討プロセスを記録し質的分析データとして活用する必要があり、これにかかる人件費および物品費が必要である。
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