研究課題/領域番号 |
22K10949
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
津田 朗子 金沢大学, 保健学系, 教授 (40272984)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 院内学級 / 長期入院 / 学習環境 / 学校 / 発達保障 |
研究実績の概要 |
長期入院している子どもへの学習支援は重要であり、病院内に特別支援学級(以下、院内学級)が設置されている場合であっても、在籍していた学校(以下、前籍校)と連携し退院後を見据え長期的な視点にたった支援が必要である。しかし実際には、その対応は担当者の力量に左右される側面が大きく、自治体や病院による環境の差も大きいと考えられるが、その実態は明らかになっていない。 そこで、本研究では、長期入院経験のある当事者やその支援に関わる者への聞き取り調査、および院内学級の現状についての全国調査から、その実態と課題を明らかにする。また、調査結果を活用し、ICT等を利用しつつ、今後、院内学級が担うべき役割について検討する。 2022年度は、長期入院経験のある当事者として、小児がん経験者4名を対象に、入院中に受けた教育支援の実際とこれに関連する体験、思い等についてのインタビュー調査を実施した。院内学級を利用していた者は4名中3名で、前籍校との繋がりは主に担任を介して行われていたが、組織としての連携体制はなく、進級や進学をきっかけ距離が生じていた。当事者の語りを質的に分析した結果からは、入院によって【学校は自分の居場所】として意識化され、入院、治療、退院、復学という一連の経過の中で【学校に自分が居ない孤独感】【中途半端な状況による所属感と自信の喪失】【人とは違う孤独感】を感じること、その一方で、院内学級など【学校の代替の居場所】としての病院内での経験は、人との居心地の良い関わりの中で、<入院中自分らしく過ごすことができた体験の記憶>として捉え直され、【そのままの自分を受け入れられる場】、つまり自身の新たな居場所を捉え直すプロセスとして体験されていくことが明らかになった。 2023年度は対象を追加し、さらに分析を進めるとともに、その結果を項目に活用した全国調査を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を計画した段階では、初年度に入院中の学習環境の現状についての全国調査までを行うことを予定していたが、長期的な視点で学習環境や支援を検討するためには、入院中の体験を子どもが発達の過程の中でどのように捉えていくのか、当事者の体験をプロセスの中で理解する必要があると考えた。そこで2022年度は予定を変更し、小児がん経験者のインタビュー調査を実施した。対象人数が4名と少ないため、2023年度もデータ収集・分析を継続する。また、得られた結果は、今後実施予定の全国調査に活用予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.長期入院経験のある当事者へのインタビュー調査:2022年度に実施した小児がん経験者対象のインタビュー調査は、引き続き実施する。 2.地方の病院の院内学級担当教員、およびこれに関わる看護職者等への聞き取り調査:全国調査の項目を特定するための予備調査として、院内学級での活動内容や方法、前籍校とのつながりの実態がより具体的に把握できる内容を聞き取る 3.院内学級の現状に関する全国実態調査(郵送/質問紙調査):全国の小児病院・病棟等に設置されている院内学級の担当教員、及び看護師長を対象に支援体制(人的・物的環境)、前籍校との連絡方法や頻度・内容、実践内容・方法、課題に感じていることを調査 4.調査結果を活用したフォーカスグループインタビュー(FGI) 5.関連学会および論文による成果発表
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、実施予定であった全国調査を2022年度は実施しなかったため、調査に使用予定であった郵送通信費、会議費、および人件費等を執行しなかったことにより未使用額が生じた。2023年度は、分析結果を活用して調査項目を検討の上、全国調査を実施予定であり、それにかかる郵送通信費、会議費、データ整理のための人件費として使用予定である。また、2022年度に実施した当事者を対象に行ったインタビュー調査の結果は、データを追加した後に関連学会および論文にて発表予定であり、そのための学会参加費、交通費、英文校閲費として使用する予定である。
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