研究課題
足関節捻挫すなわち足関節靭帯損傷は、スポーツ外傷の中で最も発生頻度が高く、再発率は50%を超える。慢性足関節不安定症では捻挫を繰り返す悪循環に陥り、変形性関節症のリスクを高め、スポーツ選手の競技生命を脅かす。超音波診断装置(エコー)を用いて非侵襲的かつ簡便に靭帯損傷の早期診断や関節不安定性の推定が可能となった。しかし、関節不安定性を正確に定量化することは難しい。本研究の目的は、①足関節靭帯損傷患者の関節不安定性をエコーで定量評価できるシステムを開発し、②それを用いた関節不安性の重症度判定によって機能的予後や競技復帰の予測に役立てることである。2022年度は、本研究のコアとなる関節間距離を自動計測するシステムを開発し、それを用いて整形外科クリニックに受診した足関節外側靭帯損傷患者の関節不安定性の定量化を試みた。21名42足を対象に前方ストレステスト時の関節動態を記録し、オフラインで超音波画像上の関節間距離を計測した。短時間で人為的誤差を軽減することに成功し、その成果を学会(第33回日本整形外科超音波学会、第9回日本スポーツ理学療法学会)および英文誌Scientific Report(Kawabata et al. 2023)に公表することができた。2023年度は、中等症(Ⅱ度)の足関節外側靭帯損傷患者20名を対象に、関節不安定性が減少する期間を経時的に観察した。その結果、患側の距骨-腓骨間距離の変化量は初診時4.3±2.1mm(平均値±標準偏差)、1週時3.9±1.8mm、3週時1.9±1.0mmで、3週時に有意に低値となった。健側の初診時平均値が1.4±0.8mmであることを考慮すると、靭帯損傷後の関節不安定性が改善するには最低でも3週間を要することを学会で発表し(第34回日本整形外科超音波学会)、同学会誌にも論文掲載が決定した。
2: おおむね順調に進展している
2022-2023年度にかけて順調に足関節外側靭帯損傷患者のエコー動画を用いた経過観察を行うことができている。2023年度は足関節外側靭帯損傷後の関節不安定性が改善するには3週程度を要することを示すことができた(第34回日本整形外科超音波学会)。また100例超の症例のエコー動画を解析した結果を2023年度末に英文誌に投稿することができ,現在査読中である。また重症度別の解析やリハビリテーション後の復帰期間との関係についても解析中を進めており、次年度以降に発表できる見込みが立っている。
引き続き症例数が蓄積されており、本研究は予定通り推進している。今後は「足関節捻挫受傷後の関節不安定性の重症度判定」、「急性期で生じた関節不安定性の改善に要する期間」、「重症度別の競技復帰までの期間」などを明らかにすることを目指している。
2023年度に使用できた研究費は予定の約半額であった。国際学会の発表ができなかったこと,投稿中のオープンジャーナルの掲載料が来年度に繰越す形となり,今年度分の予算が残ってしまった。
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