研究課題/領域番号 |
22K11305
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
落石 知世 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30356729)
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研究分担者 |
清末 和之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (50356903)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβタンパク質 / オリゴマー / トランスジェニックマウス / 習慣的運動 / 行動解析 |
研究実績の概要 |
運動によって高齢者の認知機能が改善されることはよく知られている。アルツバイマー病(AD)患者でもこれは例外ではないことから、薬によるAD治療法が未だに確立しない中、習慣的な運動は新たな治療的介入の一環として注目を集めている。ADにおいてシナプス機能の低下はアミロイドβタンパク質(Aβ)のオリゴマーによって引き起こされることが示唆されている。本研究ではAβにGFPを融合することによりAβオリゴマーのみを形成する、Aβ-GFP融合タンパク質を脳内に発現させたADモデルマウス(Aβ-GFPマウス)を使用した。このモデルマウスは、老人斑の形成・神経原繊維変化・脳萎縮は起こらないが、老化とともにタウのリン酸化が亢進し、海馬の長期増強(LTP)が抑制され、スパインの数が減少し、生後2か月齢で既に記憶障害を呈することから、認知症発症初期のモデルとしてAβオリゴマーに起因して起こる様々な神経活動の変化を捉えることが可能である。そこで細胞内Aβオリゴマーが引き起こす認知機能障害が習慣的な運動によってどのように変化するのかを、神経の伝達効率に関連するシナプス領域のタンパク質にターゲットを絞って解析する。本年度は、これまで本研究で得られた、Aβ-GFPマウスの海馬で運動によって発現が変化する遺伝子群の中からドーパミン受容体に注目し、脳での発現変化を解析した。またAβ-GFP融合タンパク質と相互作用する可能性のあるタンパク質を質量分析法にて網羅的に解析した結果からドーパミン受容体の転写調節因子とAβの関連を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに得られていたDNAマイクロアレイの結果から、Aβ-GFPマウスにおいて、回転かごによる運動群は非運動群と比較して、ドーパミンD4受容体(DRD4)の遺伝子の発現が増加していることが明らかとなっていた。今年度は回転カゴによる自発的な運動負荷を7週間行ったAβ-GFPマウスの海馬および大脳皮質において、DRD4タンパク質の発現変化をwestern blotによって解析した。その結果、運動を負荷したAβ-GFPマウスの脳において、タンパク質レベルでもDRD4の発現が非運動群よりも増加していることが確認された。また、質量分析の結果、Aβ-GFPマウスの海馬において、AβオリゴマーはC/EBPαと結合する可能性が明らかとなった。C/EBPαはドーパミン受容体の転写調節因子と結合することが示唆されていることから、AβオリゴマーとC/EBPαの相互作用がDRD4の発現に影響を与えるかを培養細胞系で解析した結果、C/EBPαによるDRD4の発現増加をAβオリゴマーが抑制することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
C/EBPαがドーパミン受容体の転写調節因子に関与し、それがAβによって制御される可能性を遺伝子レベルで明らかにする。また、実際に回転カゴによる運動負荷の結果、脳内でC/EBPαとAβオリゴマーの相互作用が起こり、それがDRD4の発現変化に繋がることを証明する。さらに、その相互作用が運動によってどのように引き起こされるかを詳細に解析し、アルツハイマー病におけるドーパミン受容体の発現と運動負荷による認知機能改善の関連を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の飼育費として考えていた経費について、産業技術総合研究所の運営費交付金で全額を賄うことができたためその分の余剰が生じた。そのため次年度の実験動物維持費、外注分析費、論文の投稿および掲載費として使用する。
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