研究課題/領域番号 |
22K11369
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
車谷 洋 広島大学, 医系科学研究科(保), 講師 (00335647)
|
研究分担者 |
伊達 翔太 広島大学, 医系科学研究科(保), 助教 (30866869)
兒玉 祥 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (40806478)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 筋シナジー / 到達動作 / ジャグリング動作 / 脊髄神経活動推定 |
研究実績の概要 |
本年度は初年度に構築した多チャンネル筋電図計測環境を使用して,物体への到達把持動作時の筋活動からの脊髄神経活動の推定,身体部位リーチ動作時の上肢筋シナジーの分析,および新規運動学習課題としてジャグリング動作を利用して運動シナジーの変化を検討した. 物体への到達把持動作中の脊髄神経活動の推定では,表面筋電図により到達動作中の肩甲帯,肩関節,上腕,前腕,手の20筋から筋活動を記録して筋シナジー解析を行ったのち,脊髄神経活動の推定を行った.到達動作開始時には肩甲帯の筋を支配する上位頸髄が活動し,次いで物体へ手を到達させる筋を支配する第5~7頸髄の活動が増加し,物体把持にかけて手の筋を支配する下位頸髄の活動が増加し,到達動作中の脊髄神経活動が上肢動作に合わせて時間的,空間的に上位頸髄から下位頸髄へと推移することを確認できた. 身体部位への到達動作の上肢筋シナジーの分析では,利き手での4方向(頭部,対側肩,下方,背面)への到達動作中に記録された肩甲帯,肩関節,上腕,前腕の筋活動に対して,到達方向ごとに筋シナジー解析を行い,到達方向で共有されるシナジーについて検討した.全方向で共有されるシナジーは前鋸筋と三角筋の協調パターンであり,次いで共有の多かったシナジーは僧帽筋が到達動作初期に活動するものであった.僧帽筋が到達動作の初動筋で,肩甲帯や肩関節周囲筋が主動作筋として機能していると考えられる. ジャグリング動作は2つのお手玉を両手で回す課題とし,7セッションを繰り返す運動学習を行い,ジャグリングの成功回数,関節角度と運動シナジーの運動学習による変化を検討した.セッション増加に伴い成功回数は有意に増加し,両肩関節の関節角度に有意な減少を認めたが,運動シナジーには有意な変化がなかった.お手玉は空間自由度が大きい課題であるため,運動シナジーの変化に影響しなかった可能性がある.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の主要な目的の一つである脊髄髄節の神経活動の推定により,脊髄神経活動を時間的,空間的に表現できた.一方で,新規運動学習課題のジャグリング動作の計測時に,筋電図機器の不調により複数の筋活動の記録ができていない状態であり,筋シナジーの変化を検討できなかった.また,新規運動学習課題として空間自由度の大きいお手玉よりも,空間的な制約のある課題のほうがシナジーの変化を検討するうえで,望ましい可能性があることも分かった.今後,空間的な制約のある課題を利用して,非利き手での新規運動学習を行った際の筋シナジーと運動シナジーの変化を検討する予定である. 患者例では,研究協力の対象となる障害例が少なく,障害例へのリクルートが遅延している. 総じて,やや遅れていると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度よりも筋数を増やして脊髄神経活動の推定を行ったが,脊髄神経活動の推定は可能であることが確認でき,到達動作時には僧帽筋を支配している上位頚髄から手を支配している下位頚髄へ時間的・空間的に活動が推移していることが確認できた.一方で,ジャグリング動作としてお手玉を課題として検討を行ったところ,運動シナジーには変化がなかった.お手玉は上肢を利用する粗大で空間的な制約の少ない動作であるため,シナジーの変化が少なかった可能性がある.新規運動課題の学習過程で脊髄神経活動の変化を検討するためには,空間的な制約のある動作課題のほうが適している可能性があるため,次年度は手や上肢全体の空間的な制約のある動作課題を利用して,新規運動獲得時のシナジーの変化と脊髄神経活動の変化を検討する予定である. また,引き続き上肢全体に影響のある障害例のリクルートを行いつつも,障害罹患頻度の高い手の末梢神経障害例も含めて対象を拡大して,障害例のシナジー解析例を増やすことに努める.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度に実施した国際会議での研究成果報告が国内開催の国際会議であったことなどがあり,次年度使用額が生じた.次年度は,研究成果報告を行いながらも,シナジートレーニングの調査を継続するため,次年度使用額も含め,研究成果報告や調査時に必要な物品購入に充てることで,研究進捗の充実化を図る予定である.
|