研究実績の概要 |
プロジェクト中間年の2023年度は、前年度に得られた実験結果をまとめ、国際学術雑誌であるPLOS ONEに投稿し掲載された。また新たに2件の行動実験を行った。1件目の実験では、前年度に実施した実験の空間解像度を高め、身体近傍空間への上肢到達運動の時空間的性質を再調査した。具体的には、身体から9方向(0, 22.5°, 45°, 67.5°, 90°, 112.5°, 135°, 157.5°, 180°)、3距離(near:11.4cm, middle:22.9cm, far:34.4cm)の27個の標的に対する到達運動の性質を調べた。その結果、前回結果と同様に運動時間は利き手斜め前方で最小、非利き手斜め前方で最大を示したが、far条件ではnear条件に比べ運動時間の伸延が利き手側に偏倚した(約22.5°)。このことは、運動に要するコストは距離と方向の交互作用に影響されることを示し、中枢に想起される「行動空間」は空間と身体の空間的関係性に依拠することが示唆された。2件目の実験では、身体前方の2つの標的間を往復する上肢運動の時間的性質(運動課題)、および実際の運動を伴わない主観的な運動能力(認知課題)を評価した。運動課題では左右の標的をできるだけ速く正確に連続的にタップさせた。認知課題のうち距離課題では、連続的に呈示される音刺激に合わせてタップできると判断される標的間距離を報告させた。同様にサイズ課題では、標的サイズを報告させた。これらの課題における距離、標的サイズ、運動時間の関係性を定量し比較・検討した結果、運動課題、認知課題ともにFittsの法則が示す速度と正確性のトレードオフの関係が確認された。他方、距離課題における主観的な見積もりは実際の運動とほぼ一致したが、サイズ課題では運動時間を長く見積もり、自己の運動を過小評価する傾向が見られた。
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