研究課題/領域番号 |
22K11670
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研究機関 | 川崎医療福祉大学 |
研究代表者 |
山形 高司 川崎医療福祉大学, 医療技術学部, 講師 (30588562)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 神経免疫 / 自律神経 / 運動 / トレーニング / 血圧 / 抗炎症 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、運動による降圧ならびに抗炎症作用の新たな機序を解明することにあり、自律神経活動およびリンパ球の機能変化に着目した神経免疫学的なアプローチから検討を行う。 今年度は、昨年度末に実施した地域在住の中高齢者を対象とした等尺性ハンドグリップトレーニングに伴う降圧作用ならびに自律神経活動の変化に関する詳細な分析を加えた。その結果、健康関連QOL指標において、トレーニング期間前の身体機能が高い者で降圧効果が強い可能性を示す結果が認められた。睡眠との関連について検討した結果からは、運動トレーニングに伴い日中の副交感神経活動の抑制が強い者ほど睡眠の質が改善する結果を認めた。一方、認知機能との関連については、明らかな影響は認められなかった。すなわち等尺性ハンドグリップトレーニングに伴う降圧作用に関しては、身体機能が影響を及ぼす点、および日内の自律神経活動変化が影響する点など、運動トレーニングに伴う降圧作用に関する個人差について考察するための知見を得ることができた。 これらの知見を踏まえ、降圧や抗炎症効果が期待されている有酸素性運動および等尺性筋力トレーニングを用いた一過性運動時の自律神経活動の変化と免疫機能の変化に関する実験計画を進めた。その中で本研究で着目しているリンパ球由来のアセチルコリンの分析に関して、ヒトを対象とした分析手法の知見が十分でなかったため検討を行い、目途をつけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、神経免疫学的アプローチから運動トレーニングに伴う降圧および抗炎症に対する新たな機序を明らかにすることを目的としている。 これまでの検討から、運動トレーニングに伴う降圧作用に対する自律神経活動の変化では日中においては副交感神経系の抑制が認められた。また、トレーニング前の身体機能が高い者で降圧効果が強いなどの運動トレーニングによる降圧作用に対する個人差のヒントを得ることができた。 また、ヒトTリンパ球細胞を用いた実験から運動時の交感神経活動の亢進に伴い分泌されるノルアドレナリン刺激が血管拡張物質のアセチルコリンの分泌に及ぼす影響について検討した。その結果、一過性のノルアドレナリン刺激に対するアセチルコリン分泌量の増加が確認された。一方で、高濃度のノルアドレナリンの反復刺激に対してはアセチルコリン分泌量が減少することが示唆された。これらの知見は、運動トレーニングの強度設定の重要性を示唆する結果と考えられる。 これらの知見を踏まえ、運動に伴う神経免疫応答と降圧・抗炎症の関連についてヒトを対象とした検討を行う予定であったが、本研究で着目するTリンパ球の評価方法について、ヒトを対象としたこれまでの知見が十分でなく、分析手法の検討に時間を要し、ヒトを対象とした運動実験が当初の予定通り進められていないため、遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
運動トレーニングによって降圧・抗炎症作用が期待されている有酸素性運動および近年顕著な降圧効果が示されている等尺性筋力トレーニングを用い、一過性の運動による自律神経活動の変化ならびにリンパ球由来のアセチルコリン分泌の変化について検討を行う。これらの知見が得られた後、運動トレーニング実験を実施し、トレーニングに伴う自律神経活動および免疫機能の変化と降圧・抗炎症効果の関連について検討を行うことで、運動トレーニングに伴う降圧・抗炎症作用に対する新たな神経免疫学的な機序を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で着目しているTリンパ球の分析について、これまでヒトを対象とした知見が十分でなく、当初動物実験の知見を中心とした分析計画を立てていたが、ヒトを対象とした新たな手法に関する知見が発表され、分析計画を再検討する必要性が生じた。そのため、実験の実施計画に遅れが生じ、当初計画にあった支出額を翌年度に繰り越すかたちとなった。 分析に関する目途がつき、翌年度分として請求した助成金と合わせて実験のための消耗品(標的免疫細胞を同定するための抗体、リンパ球由来の分泌物を測定するための試薬、培養細胞など)、ならびに成果発表(学会発表や論文投稿)に係る費用として使用する予定である。
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